日本より5年前に介護保険制度を始めたのがドイツである。要介護認定や給付対象が在宅サービスと施設サービスの2本立て、「施設より在宅重視」など、日本と似たような仕組みだ。だが、ドイツでは自宅での家族や友人などからの介護を受けると、現金給付が得られる点が日本と大きく異なる。
この家族介護に携わるのは、妻や娘、息子の妻など女性が多く、日本では制度導入前に「報酬が付くと、男性からの圧力で女性たちが介護に縛り付けられてしまう。『介護の社会化』という保険制度の原則に反する」と批判され、報酬から外された。ドイツでは当初から制度に組み込み、ほとんど批判的な議論はない。
この6月に、ケルンやボン、デュッセルドルフなどドイツ西部で高齢者ケアの現場を視察してきた。デュッセルドルフ市役所を訪ねた際に、介護担当のトップ、社会福祉部長のアンケ・ミューラーさんから話を聞いた。
介護してくれる近所の人などに
“ちょっとお礼”する現金給付の仕組み
日本と違って、自治体は保険者ではない。制度は保険料だけで成り立っており、税金は注がれていない。社会保険へのこだわりが強いからだ。その点を考慮して聞かねばならない。
日本での議論を伝えると、「ドイツでも、介護は今までずっと女性が主に担ってきました。介護保険によって、それにお金が付いたとみています。介護保険制度で現場の状況が大きく変わるとは思っていません」と、意外な答えが返ってきた。ただし、「女性に介護が押し付けられることへの賛否はあることはありますが」とミューラーさんは付け加えた。
ドイツの介護保険の在宅サービスへの給付は、現物給付と現金給付がある。現物給付は、訪問介護やデイサービスなどで日本と変わらない。現金給付は、自宅で家族や友人、近所の人、あるいはポーランドなど東欧諸国からの移民労働者などから介護を受けた時に、要介護者自身に支払われる。その報酬を、要介護者が「雇用主」として介護者たちに介護量に応じて渡すという仕組みだ。
その月間の給付額は、最重度の要介護5で11万7130円(1ユーロを130円で換算)、要介護4で9万4640円である。現物給付が要介護5で25万9350円、要介護4で20万9560円だから、その半額に満たない。要介護3と2でも同様だ。