9月の初旬に英国を訪れ、エディンバラとロンドンの高齢者施設を視察してきた。毎年のように続けている英国視察で、今年で5回目となる。認知症ケアやがん患者への対応、それにホスピスを含めた終末期のあり方をテーマとしてきた。
今回の視察で、終末期に向けた新たな施策を知ることになった。それは、ロンドンの南西部、テニスで名高いウィンブルドンにある施設を訪ねた時であった。
施設の全職員が「緩和ケア」を学ぶ時代に
終末期のあり方が変わってきた
「つい最近開かれた地域の施設運営者の会合で、NHSの担当者から新しい提案がありました。施設の職員全員に緩和ケアの手法を学んでほしいという話でした。これまでも緩和ケアに力を入れるよう言われていましたが、職員全員となったのは初めてでした。施設での看取りが一段と期待され、その方向に国が旗を振りだしたということでしょう」
NHSとは、National Health Service(国民保健サービス)。英国独特の国家医療制度である。医療費を全て税金でまかない、患者は無料で診療などを受けられる。第2次大戦中に発表されたベバリッジ報告に基づいて、1948年から始められた。
この施設は、大手介護事業者のブーパが運営する「ヒースランド・コート・ケアホーム」。5階建ての古い大きなれんが造りの屋敷で15年前に改修し高齢者施設として開設した。ホテルとして営業していたこともあるという。いかにもウィンブルドンという高級住宅地に似つかわしい。
軽度者向けの「ケアホーム」と重度者向けの「ナーシングホーム」の居室を合わせて59室持つ。各フロアにダイニングルームがありユニットケアがなされている。現在、改装中の4階フロアが12月に完成すると、18室増えるという。
ケアホームとナーシングホームは国の基準が違う。看護師配置がケアホームには不要だが、ナーシングホームでは必要になる。
同ホームが、NHSから提案された緩和ケアとは、終末期を迎えた入居者の肉体的心理的な痛みを取り、死の恐怖を和らげるためのケアで、主にがん患者向けに施される。ホスピスでは必ず提供されるサービスである。
その緩和ケアを全職員ができるように要請された。これには終末期の迎え方への大きな示唆があるようだ。1人で歩行ができるような軽度者が暮らすケアホームを抱えている事業者でも、終末期の対応をきちんと整えておくべきだということだ。