今年もオランダで高齢者施設を視察してきた。人気の画家フェルメールを育んだ陶芸の町、デルフトに足を延ばしたほか、例年通りアムステルダム周辺など各地を回った。注目したのは、認知症の高齢者が施設でどのように過ごしているか、最期の時をどのように迎えているのか、である。
2012年から6回に及ぶ視察で24の施設を訪ねた。半世紀前に開設したところから3年前にできたばかりの施設。定員も30人から150人とさまざまな規模だ。これらの視察を通じて、この国の施設づくりの方向性と目指しているケアの在り方を考えてみたい。
1人部屋+水回りは数人で共有
普通の暮らしができる「個室ユニット形式」
アムステル市内で外国人が多く住み、中層の住宅ビルが立ち並ぶ中に、「コアダーン」が運営する集合住宅があった。コアダーンは、同市内で訪問看護介護の事務所など看板をよく見かける大手の事業者である。
5階までの各フロアに5~7室が連なり、合わせて30人が暮らしている。全員、認知症ケアが必要だ。各部屋には自宅から持ち込んだゆったりした椅子や写真などが並び、自宅と変わらない雰囲気だ。
廊下の先にはLDK(リビング・ダイニング・キッチン)が広がる。三方向からの大きな窓を通じて明るい陽射しが注がれ、車いす姿の入居者たちが落ち着いた表情で昼食を待っていた。
こうしたユニット形式はどこの施設でも共通している。だが、40~50年前は違っていた。4人部屋や2人部屋も多かった。個室も狭かった。個室ユニット型への変遷の歴史が一目で分かるのは、ロッテルダムに建つ10階建てのヤンメルテンスである。運営する大手法人、ユマニタスの第一号施設である。
1964年に開設されたときは353室。それを24年後に大改修して2部屋を1部屋に統合、「普通の家の広さに近付けた」。部屋数は半分以下の162に。そして2007年には、全体の半数をユニット型に改変した。7つの個室ごとにLDKを備えた。認知症の人の入居が増えてきたためである。
集団管理から個別ケアへの転換である。認知症ケアの理想型である「グループホーム」方式を取り入れた。家庭的な小さなグループを作り、できるだけ普通の暮らしに近付けた生活を送ることが何よりのケアスタイル、という考え方である。