人民元とドル
中国が人民元の1ドル=7元割れを容認したことが引き金となって世界中の相場が混乱 Photo:Reuters

 ドナルド・トランプ米大統領は、貿易戦争で勝利するのは簡単だと主張していた。しかし、新たな対中関税の警告を受けて金融市場が大混乱に陥る中で、こうした誇らしげな発言に以前のような輝きはない。トランプ氏の貿易戦争は今や通貨戦争となり、そこから生じうる経済的打撃のレベルは新たな段階に引き上げられた。

 3000億ドル(約31兆7400億円)相当の中国産品に10%の追加関税を課すとのトランプ氏の警告を受けて、中国が人民元安を容認したことで、5日の金融市場は世界的な投げ売りに見舞われた。新興国の通貨が急落し、株価は3%前後下落した。安全資産とみなされている金と米ドルは急上昇し、10年物米国債の利回りは1.74%という驚くべき低水準になった。

 こうした相場決壊は、中国が人民元の1ドル=7元割れを容認したことが引き金となった。これは2008年以来の安値水準だ。トランプ氏はこれについて「為替操作」だとツイートしたが、一体どんな展開を予想していたのだろうか。これは報復措置と言うよりは、中国の対米貿易の減少と中国経済の成長鈍化に伴う世界的な人民元の需要低下を中国政府と市場が認識したことの表れだ。トランプ氏は元安を好ましくないと言うが、それは自身の関税措置が生み出したものだ。

 米財務省は5日遅く、中国を公式に為替操作国と認定することで対立を深刻化させた。操作国認定が、新たな関税措置につながる可能性もある。しかし、資本流出を防ぎたい中国政府は人民元のさらなる下落を阻止したいはずだ。2015~16年の資本流出時には、中国政府は元相場防衛のため4兆ドルの外貨準備のうち1兆ドル前後を費やした。元相場のあまりにも大幅な下落は、債務危機を引き起こす恐れもある。中国の債務者が外貨建て債務を返済するのが難しくなるからだ。

 国際金融協会(IIF)によると、金融機関以外の中国企業のドル建て債務は国内総生産(GDP)の6%に相当する8000億ドルに上る。中国の銀行のドル建て債務は同5%相当の6700億ドルだという。不動産開発業者らは、国内事業の利益が減少しているにもかかわらず、米国の超低金利に乗じて数百億ドルもの債券を発行している。そしてこれらは、中国の対外債務のうち、われわれが把握している分だけに限ったものだ。