トランプ大統領が8月1日に表明した対中関税第4弾に対し、中国当局は同月5日の元レートを7元超の元安水準を容認するなど、踏み込んだ報復措置を取り始めた。毎年この時期に開催される「北戴河会議」を機に、対米強行派の声に押されて米国債売却という切り札を切る可能性も否定できない。ここでは、人民元の下値目処と米国債売却が行なわれるとすれば、その兆候はどこに現れるかを考えたい。
緩やかな元安誘導が続く
実効関税率と連動する人民元
中国政府はこれまで、投機的な人民元安をけん制しつつも、緩やかな元安誘導を進めてきた。中国の政府活動報告書から「市場の役割を重視する」という文言が削除された2018年3月の元レートは1ドル=6.3元前後だったが、今年8月1日には6.9元へと約10%下落した。これは米国が中国からの輸入品の約4割に相当する2000億ドルに25%の関税を課した場合の実効関税率(4割×25%)に等しい下落率である。
中国の通貨当局が、意図的に実効関税率の上昇分だけ人民元を低下させているとすれば、それには理由がある。中国の輸出業者の多くは、関税分だけ対米輸出価格が上昇してしまうため、関税分を値引きして輸出数量を維持していると聞く。当然ドルベースの手取り額は減ってしまうが、元相場を同じ率だけ下落させれば、元ベースでの手取り額は減らずに済む。
中国人民銀行の藩副総裁は今年5月、「中国には人民元を合理的な水準で安定させる自信も能力もある」と発言しているが、実効関税分だけ元レートを切り下げるのは、米国側からみれば為替操作に映るが、中国側からすれば合理的な調整の範囲なのだろう。
トランプ米大統領は8月1日、これまで関税の対象としてこなかった中国からの輸入額の約6割に相当する3000億ドルに対し10%の関税をかけると発表した。これにより、前述の理屈から考えれば、元安余地は追加的な関税上昇率に相当する6%(=6割×10%)の分だけ拡大する。追加関税が発表される直前の元レートを基準とすれば、単純計算で7.3元まで元安が進むことになる。