事前販促のために、本社から届いた豪華なミニチュアサイズのサンプルは3000本。さっそく社内で、このサンプルをどうやって使うかというブレストになりました。

 「売り場は、月1万円以上購入してくれるお得意様の再来店を促進するために差し上げたいと言っていますよ」

 「確かに売上を上げるというのには手っ取り早い方法だけど、サンローランが久々に出すプレミアムラインの新しい口紅としての話題性はつくれないね」

 「各売り場に割り振ったら、1カウンター数十個くらいしか行き渡りません」

 「せっかくだからPR効果のある使い方をしたいですね」

 そんなブレストを繰り返す中で私が思いついたのは、東京の西武渋谷店だけのプロモーションに絞るという作戦。
 3日間のプロモーション期間中、先着3000名に無料で差し上げることにしたのです。

 しかも、普通にあげるのではつまらないので、「男性限定」としました。
つまり、サンプルが欲しい方は彼氏やご主人に頼んでください、ということです。

現場を含めた社内スタッフから猛反対

 「男性が女性の化粧品売り場に来るはずありませんよ!」

 「サンプルをもらうために並んでなんて、彼氏に頼もうとは思わないですよ」

 「彼氏のいない女性はどうしたらいいんですか?」

 現場を含めた社内スタッフからは、こうした否定的な意見もバンバン出ました。

 しかし、「口紅のサンローラン」とも言われていたブランドが満を持しての新ライン発売ですから、皆が驚くような話題づくりをしなくちゃダメです。

 こうした思いは揺るがず、皆の反対を押し切って、このプランを決行しました。プロモーションの告知は、東京版の「朝日新聞」に2段組みの広告を出したのみ。

 「週末キスをご予定の彼氏(あなた)は、渋谷西武まで急いで!」

 改めて振り返ってみても、結構インパクトがあるコピーだなと、手前味噌ながら思います。