「現場に答えがある」。一般的には、こう思われている方が多いでしょう。もちろん、技術革新や商品開発に携わる方であれば、ユーザーの声は聞いたほうがいい。ですが、ブランドビジネスの場合は別です。特に「売れていない現場」は参考にしないほうがいいでしょう。そこに、会社を再生させるような画期的な答えはないからです。
  連載第3回では、現場の声を聞かないことで成功した、イヴ・サンローラン・パルファンでの事例をご紹介します。

売れていない現場に、答えはない!

 「現場には答えはない!」と言い切っているので、
皆さんから、
「先入観に囚われないためにライバルを見ないのは分かるけど、現場というのは、自社の大切な手持ちの材料じゃないか!
という声が聞こえてきそうです。

 もちろん、技術革新や商品開発の場合であれば、商品が使われている現場を見ることは不可欠でしょう。
  ですが、ブランドビジネスにおける販売現場の場合は別。
  とりわけブランドが低迷しており、革新的な戦略を打ち出して会社を再生しなくてはならない場合は、現場を見ないほうがいいと思います。

  なぜなら、売上が低迷している時というのは、現場には停滞ムードしかないからです。そんな時には、ポジティブな意見はほとんど上がってきません。

 さらに言えば、「現場の希望」と「ブランドの希望」というのは、一致しないことが多いものです。

 現場は目の前の売上アップのための販促を求めてきますが、ブランドとしてはもっと本質的な視点から考えなくてはなりません。

 現場からいい意見が出てこないとは言いませんが、皆が一様に「現場を見なければ始まらない」と主張するのはおかしい。『口紅は男に売り込め!』の中でも触れた「定説を疑え」の発想と同じです。

サンプルは、「渋谷西武」のみ。「男性限定」で配布

 では、現場を見ないことで実績を出した例を、ここでご紹介しましょう。

 ブランド再生の場合、まず話題を作って勢いをつけることが大事です。
新企画の立ち上げの場合も同じ。

 最初のエンジンをかける時に一番エネルギーが必要ですから、ここで一気に初速を上げることができればしめたもの。

 ブランドの「売れている感」をうまく演出できれば、後は徐々にスピードを上げていけばいいのです。この場合も、目先の売上を重視しがちな現場に囚わ
れすぎると、思い切ったアイデアはでてきません。

 ある時サンローランで、「ルージュピュール」というプレミアムラインの新しい口紅が発売されることになりました。