新島和貴氏は東京都内で空き家の無償提供を手がけている。だが口で言うほど簡単な仕事ではない。ある朝、同氏は管理している不動産の1つを訪ねた。山の中腹に立つ築100年の木造住宅だ。中に入るやいなや、同氏は畳の上に散乱する虫の死骸を掃除機で吸い始めた。同僚もほうきを手に作業を手伝った。新島氏は東京都の山間部にある奥多摩町で若者定住推進課の課長を務めている。同町は東京都の面積の1割を占めるものの人口はわずか5100人。1970年代に比べて半減した。東京都心からの移動には2時間以上かかる。イノシシがゴミ箱をあさり、学校から保護者の携帯電話に熊の出没警報が配信されるような地域だ。町役場や病院、数カ所の観光スポット以外、この地域にはほとんど雇用がない。