「新たな読者層に届ける」。チャレンジの裏にある葛藤
――市川さんが初めて「瞬間ゼミ」を見たときは、どんな印象を持ちました? 率直な感想をお聞かせください。
市川 面白いなと思った一方で、本の内容をそれなりに知り尽くした人間としては、「極限まで凝縮して、すごくライトにアレンジされているな」という印象を受けました。「凝縮されすぎているのではないか」と。ただもちろん、私がこの本をつくったときに想定した読者とは違う層に届けようと動画をつくっていらっしゃるという意図も感じていましたし、そういうものかなとも思います。
冨永 ぼくたちが意識しているのは「スマホ最適」。そのためには、動画の再生回数がYouTubeより格段に多いTwitterで勝ちたいと考えています。でもTwitterは情報がどんどん流れていくメディア。堅すぎるコンテンツは受け入れられません。Twitterで広がるコンテンツを目指した分、本を練り込んでつくった市川さんから見れば、ライトに見えすぎてしまうのもわかります。
松井未來(以下、松井) 「瞬間ゼミ」は、出版社がなかなかリーチできない層に書籍の情報をどうやって届けるか、というチャレンジだととらえています。読書をするときって、読者はすでに「読むことを決めている状態」にあります。一方でTwitterは、意図せずに情報がどんどんはいってくる中で、そこからまずは「必要な情報」として認識をしてもらって、さらには興味・関心を喚起させなくてはいけない。
「瞬間ゼミ」について、編集者としては市川が言ったように「前半1分、後半1分、計2分の動画に収まる情報量だけで本が完結していると思われるのは困る」という心配は当然持つと思います。でもマーケティング視点ではやはり、「本を読む」と決めている人にできる話と、何も知らない人にする話とでは、伝えるべき内容であったり見せ方が異なってくる。
テキストベースの出版業界で長くやってきた私たちにとっては、その感覚がまだ、なかなか難しいんですよね。「瞬間ゼミ」には、私たちだけではわからない感覚や工夫がたくさん詰まっていると感じます。
大澤 今回動画をつくっていて感じたのは、「書籍」という絶対的な信頼感がバックにあるから、「動画」では極限までゆるく振り切れるんだということ。今はSNSでも情報があふれ返っていて、その中で「書籍」というバックなく「瞬間ゼミ」の動画をつくっても、先生の話す内容に説得力が出せず「ネットで拾った情報」のひとつにしかなりません。書籍の信頼感はこんなにも大きいんだと実感しました。
冨永 最近、YouTubeでもTwitterでも、ビジネスパーソンがすごく増えてきているんです。とくにYouTubeは、一時期10代、20代しか見ていないなんていわれていましたが、今はそんなことはない。テレビで名が通っているタレントもYouTubeに進出しています。これから年齢層はどんどん幅広くなるでしょう。今回の「瞬間ゼミ」は、そのような層に届けたいと思って作りました。
市川 まさに「どの読者層に届けるか」なんですよね。今まで読んでくれている読者以外にどう届けるか。今回のテーマのひとつは「SNSを通じての新しい読者の獲得」。その点では、SNS感度の高い読者層に届けるノウハウを持っているチョコレイトさんとタッグを組めてよかったと思っています。
――著者の沢渡さんは、「瞬間ゼミ」を見て何かおっしゃっていました?
市川 著者自体がユーモアをわかってくれる方ですからね(笑)。「すごくいいですね。面白い」とおっしゃっていました。
大澤 よかった。著者の方がどう思っているかだけがものすごく不安だったんです。怒っていたらどうしようかと(笑)
「スピード」をギリギリまで追求
――「瞬間ゼミ」公開から約3週間。視聴者からの反響は届いていますか?
大澤 公開初日にTwitterでエゴサーチをしたんです。そうしたら、意外にも学生さんと思われるプロフィールのアカウントの方が、いい反応を示してくれていて。「瞬間ゼミ」は、LINEやカカオトークと同じメッセージ形式で動画が展開されていく。「チームの生産性」というテーマに自分との共通点がなくても、動画のフォーマットには共通点がある。そこがすんなり受け入れられたのかもしれません。
冨永 思った以上に、というのもなんですが(笑)、いい反応をいただいていますよね。実は、「瞬間ゼミ」のスピード感を標準としてあげている動画ってあまりないんです。よくCMの中の表現として、スピード感があることを示すためにあえて会話を早回しにする技法はありますけど、「瞬間ゼミ」は初めから終わりまでがそのスピードですからね。「会話が速すぎる」「わからない」「意味不明」という反応も出るのではないかと恐れていたんですけど、意外とスムーズに受け入れてもらうことができています。
キングコングの西野亮廣さんも、オリエンタルラジオの中田敦彦さんも、YouTubeで受けている方々はみんな早口。「一定時間内に多くの情報を提供する」という点で長けています。「瞬間ゼミ」は彼らが提供する情報量を超えて、かつ頭に入ってくるギリギリのスピードを目指しました。
市川 そういう意味でも「対話形式」は有効でしたね。先生がひとりでガーッと話しているだけでは、やっぱり飽きてしまう。絶妙なバランスだったと思います。
――「瞬間ゼミ」という新たなチャレンジで一定の成果を得ることができました。今後、これを糧にどんなコンテンツを生み出していくのか注目しています。本日はありがとうございました。