コンテンツスタジオ CHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)の冨永敬氏と大澤創太氏、そのチョコレイトとタッグを組み動画サービス「瞬間ゼミ」に参画したダイヤモンド社の宣伝プロモーション部部長・松井未來氏、同社第一編集部編集長・市川有人氏による「4者座談」の後編。
「瞬間ゼミ」では、「先生役」となるスーツ姿の男性が「生徒役」となる若い女性の素朴な質問に答えながら話が展開していく。女性の相づちはとことんゆるく、くだけている。実現したその「ゆるさ」の裏には、ビジネス書を題材としたからこそのさまざまな葛藤があったようだ。本のつくり手、動画のつくり手はそれぞれ、どこに頭を悩ませたのか?
「受け売り先生」と「ゆるい生徒」がつくる謎の雰囲気
――「先生と生徒の対話形式」というフォーマットは、初めから決まっていたんですか?
冨永敬氏(以下、冨永) いや、外枠を固めていくうちに、徐々に決まっていったという感じです。「速動画」というコンセプトは早めに固まったんですけど、それをどう演出するかは試行錯誤を重ねました。
「速動画」とはいえ、ただ速度をあげて本の内容を要約するだけの動画では、絶対に頭に入ってこない。速度をあげる分、理解しやすいフォーマットを準備しなければならない。そこで考えたのが「対話形式」なんです。
対話でほのかに「ストーリー」をつくることで、速度をあげても視聴者の理解が追いついたり、授業の受け手の感情を「生徒役」に言わせることで共感をうながしたりといったことがしやすくなりました。
大澤創太氏(以下、大澤) 「生徒役」の相づち、軽いですよね(笑)。正直「いらないんじゃないか」という意見もあると思います。でも実は、あの相づちは重要な役割だと考えていて。あえて軽い相づちを挟むことで、動画全体にテンポ感が生まれたり、一方から発信され続けているよりも聞きやすくなったりといった効果があるんです。
市川有人(以下、市川) 対話は私も発見だなぁと思いました。このフォーマットが「瞬間ゼミ」のカギですよね。難しい話をわかりやすくする手法としての対話形式は、ソクラテス、プラトンといったギリシャ哲学の時代から使われている普遍的なフォーマット。それが最新の動画コンテンツにも取り入れられ、通用している点が面白いと思いました。
「フォーマット」という点ではもうひとつ、「テレビショッピング」のフォーマットも使われていますよね?(笑) 最初に「生徒役」の女性が「私、こんなことで困ってます」って先生に相談して、それに対して先生が「こうやって解決しましょう」と答える。高枝切りばさみの売り方と同じ(笑)。これって実は、実用書の「はじめに」のフォーマットともまったく同じなんですよ。短い動画の中でも、内容を魅力的に見せるためのフォーマットがしっかり踏襲されていることに感心しました。
冨永 実はもともと、市川さんがおっしゃる「私、こんなことで困ってます」の部分はなかったんですよ。でも動画作成を進めているうちに、「なぜ先生が生徒にこんな話をしているんだ」という必然性が見えづらいなと感じてきて、「こんなことで困ってます」を冒頭に入れることにしたんです。入れて正解でしたね(笑)
あと大きいのは、「著者が直接解説していない」という部分だと思います。
市川 なるほど。それは確かに書籍との大きな違いですね。
冨永 「瞬間ゼミ」の先生は、いわば「スーパー受け売り先生」(笑)。何もすごくない。でもその分、思い切って書籍のエッセンスを抽出することができるんです。あくまでも「本の要約」ではなく、「生徒役の女性に解決策を授けるべく、書籍のエッセンスを抽出しているだけですよ」という言い訳もしやすい。そしてそのほうが、動画の中では納得感を得られやすい。
市川 そこが面白いんですよね。書籍では必ず、「はじめに」で「著者は何者なのか」を解説するんですよ。でも「瞬間ゼミ」では、あえて「著者」と「話者」をずらすことで納得感をもたらしている。
大澤 もしかしたら「沢渡あまねさんという著者のコンテンツをさも自分のもののようにしゃべるコイツは何なんだ」と思う方もいるかもしれないです。だけど先生役に「色」がない分、受け売りの言葉でも意外に納得してしまうんですよね。