現在の世界的な不況に対し、「鎖国」の発想で外部からのショックを遮断しようというのは、現実的な方策とはいえない。林毅夫・世界銀行副総裁が、今こそ国家が果たすべき役割について提言する。

林 毅夫
林 毅夫(ジャスティン・リン)
世界銀行上級副総裁・経済開発チーフエコノミスト 1952年台湾生まれ。台湾政治大学、北京大学で修士号、米シカゴ大学、米イェール大学で博士号取得。北京大学中国経済研究センター教授を経て現職。
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 世界経済は、まさに今、深刻なリセッションのただ中にあり、金融市場の混乱、富の大規模な崩壊、工業生産・国際貿易の減退が顕著になっている。

 国際労働機関によれば、2009年を通して続いた労働市場の不振により、世界の失業者数は、2007年に比べ推定3900万~6100万人も増加するかもしれないという。つまり、2009年末までに世界の失業者数は2億1900万~2億4100万人に達する可能性があるということだ。過去最悪の数字である。

 一方、グローバルレベルでの実質賃金の伸びは2008年中に急減速し、2009年には、景気回復の可能性がうかがわれるにもかかわらず、さらに鈍化するものと予想されている。データが入手可能な53ヵ国についての標本調査では、実質平均賃金の成長率(中央値)は、2007年の4.3%から2008年には1.8%へと低下した。一日当たり所得1.25ドルという国際的な貧困ライン以下で暮らす人口は2005年時点で14億人と推定されていたが、世界銀行では、今般の危機の影響により、新たに8900万もの人びとが貧困に陥る可能性があると警告している。

 こうした状況の下で、グローバリゼーションは厳しい批判の的になっている。そのなかには、グローバリゼーションから大きな利益を得られた開発途上国の指導者からの声も含まれている。ウガンダを国際市場に統合するうえで功績があったと広く認められているヨウェリ・ムセヴェニ大統領は、「(グローバリゼーションとは、開発途上国の市場へのアクセス確保を望む富裕国による)新たな支配手段、新たな抑圧手段、新たな疎外(marginalization)手法を伴う、相変わらずの旧秩序」であると述べている。

市場経済こそ繁栄の源泉

 だが、グローバルな統合に代わる選択肢には、ほとんど魅力が感じられない。なるほど、経済的に「鎖国」すれば外部からのショックは遮断できるだろう。だが、その結果として停滞を招き、国内発の深刻な危機にさえ陥りかねない。現在その例が見られるのがミャンマーや北朝鮮などだ。経済自由化前の中国、ベトナム、インドも同じ道を歩んでいたことになる。