ハードウェアビジネスを持たない純粋なソフトウェア企業で世界の売上高トップ3はどこかと聞かれたら、あなたは即答できるだろうか。1位は、いわずもがな、マイクロソフト。そしてハードウェアメーカーのサン・マイクロシステムズ買収を決めたオラクルを除けば、2位は独SAP、3位は他でもないシマンテックだ。10年前、年商6億ドル(約720億円)程度だった米国のセキュリティ企業はその後30件を超す買収を重ね、ストレージからバックアップ、クラウドコンピューティングまで手掛ける年商62億ドル(約5600億円)の堂々たるIT企業へと大変身を遂げた。その背後にはもちろん練り抜かれた戦略があった。縮小均衡の発想に陥りがちな日本企業とは対照的な攻めの経営の神髄を、シマンテック戦略担当上級副社長のケン・ベリーマン氏に聞いた。
(聞き手/ダイヤモンドオンライン副編集長、麻生祐司)

ケン・ベリーマン(Ken Berryman)
大手コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2007年にシマンテックに入社。ネットバックアップ等の製品ライン、エンドポイント仮想化事業の責任者などを務めた後、戦略担当シニアバイスプレジデントに就任。全社規模の戦略や開発事業、新規事業を指揮する。M&A、ベンチャー投資、他社との戦略的パートナーシップも担当。ハーバード大学で物理学の学士号を、スタンフォード大学で物理学の修士号と博士号を取得。

―戦略担当上級副社長のミッションは何か。日本ではあまり馴染みのない肩書だ。

 主要な任務は、二つある。ひとつは、経営資源が、既存のビジネスに対して、可能な限り効果的に配分されているかどうかを常に確認すること。もうひとつは、脅威や新しい事業機会に対してアンテナを張り巡らし、アクションを取るべきものに対してはきちんとプランを練り、実行することである。

 後者のミッションを、もっと平たく言えば、未来を予測して自らに質問するといった感じだろうか。たとえば、もしも自分がライバルだったら、どのようにシマンテックを止めようと考えるか、もしも顧客だったらどのように態度を変えるか、常に自問自答を繰り返す。

 そのうえで、われわれが新たに参入すべき、あるいはその逆に参入すべきではないビジネスを見極める。参入を決めた場合には、「Build?(作るか)」「buy?(買うか)」の比較でとことんエバリュエーション(評価)を行う。作るよりもマーケットで技術を買うほうが安くて早い場合は、躊躇せず行動に移る。

―その発想で買収を選んだ、直近で一番大きな案件は何か。

 2008年のメッセージラボ(アンチウイルス、アンチスパムなどのセキュリティ対策をオンラインで提供する英国企業)の買収だ。