2025年、日本の企業の3社に1社にあたる127万社が後継者未定で廃業危機を迎える――。中小企業庁が出したこの衝撃的なシナリオ(平成29年『中小企業白書』より)に、驚いた人も少なくないだろう。こうした後継者不足による廃業を防ぐために、早急に多くの中小企業経営者が検討すべきなのが「事業承継」だ。中小企業経営者の視点に立ち、事業承継についてわかりやすく紹介した書籍『会社の終活』の筆者・PwCアドバイザリー合同会社の福谷尚久パートナーが、「会社の終活」に失敗しないための重要なポイントを解説する。
なぜ今、「会社の終活」が必要なのか
PwCアドバイザリー合同会社 パートナー
三井住友銀行(東京、ニューヨーク)、大和証券SMBC(シンガポール)、GCA(中国現法代表、インド現法役員等を歴任)、および現職にて事業承継のほか、業界再編・MBOなど多様なM&A案件をアドバイス。国際基督教大学(ICU)卒。コロンビア大学MBA、筑波大学大学院法学修士、オハイオ州立大学大学院政治学修士。著書は『会社の終活』(共著 中央経済社)、『アジアの見えないリスク』(共著 日刊工業新聞社)、『M&A敵対的買収防衛完全マニュアル』(共著 中央経済社)、『事例 中小企業M&A白書』(共著 中小企業経営研究会)など。
私は25年以上前からM&Aのファイナンシャルアドバイザー(FA)業務に携わってきた。自分がFAとして“デビュー”したバブル経済前後の時期は、ロックフェラーセンターやコロンビアピクチャーズ、ファイアストンといった一部の大型海外企業買収を除けば、M&Aといえば、現在とは比べものにならないほど少額の事業承継案件が大勢を占めていた。そしてそうした中小企業のM&Aにアドバイスすることが、業務の中心だった。
現在は主に上場会社や海外の企業に対して、規模が大きく複雑な案件をアドバイスすることが主だが、折々に中小企業の経営者と話す機会が訪れる。その際にはいつも、これだけM&Aが一般化してきている世の中で、こと事業承継の問題については4半世紀前の状況と何も変わっていない、という事実に直面する。
つまり、事業承継を考える中小企業経営者の多くは、いまだに「一体何から手を付けていいのか、何をすればいいのか」という深刻な悩みを抱えている。彼らの嘆きは、「いろいろな本を読んだり話を聞いたりしても、専門的なことばかりでよくわからない、もっと自分たちの目線で理解できる方法はないのか」、という点に終始していた。
こうした事情から、いままさに、事業承継への準備や心構え、自分にとって何が最良の選択であるかを考える「会社の終活」が必要であるといえる。ここでは、M&Aという手段による「会社の終活」に臨むにあたって、失敗しないための要諦をお示ししたい。
失敗の最大の要因
――売り手と買い手の認識ギャップ
「M&Aによる事業承継の失敗」には、さまざまな理由が考えられるが、その中でも最大の要因は、「売り手と買い手の認識のギャップ」である。