見慣れた風景は、いつしか変わっていく。子ども時代になじんだ風景が知らぬ間に消えていくことが寂しくて、何の変哲もない町並みをフィルムに収めていこうと、なんとなく思い立ったのは1970年代なかば、20歳前後のころだった。旅が好きだったから、自宅のある東京以外でも、全国あちこちで町の写真を撮っていった。
それから何十年と時がたち、昭和から平成にかけて(1970~90年代)撮影した場所を、令和になってから再び訪ね、同じ場所、同じアングルから撮って比較した写真を集めたのが二村高史氏の『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』(青春出版社)である。今年(令和元年)の晩春から夏にかけては、長梅雨、酷暑、台風、豪雨といった災害や天候不順に悩まされた年であった。そうした苦難を乗り越えて収録した全国47都道府県206地点の写真から、3項目9地点を紹介しよう。

東京・六本木──スノッブな繁華街の片隅にあった日常生活

 六本木といえば、今では日本だけでなく海外からの観光客で賑わう繁華街だが、昭和の時代にはスノッブな人間が集まるちょっと気取った場所という印象だった。そんな町のあちこちに、まるで下町のような普通の町並みがあったことは、今からは想像できないかもしれない。

 天をつくような高いビルが建ち、昼夜を問わず賑わっている六本木ヒルズのある六本木六丁目はどうだったかというと、昭和の時代には、ごく普通の木造住宅や商店が軒を連ねる昔ながらの町だった。けやき坂通りといえば、六本木ヒルズの中央を貫き、ブランドショップが建ち並ぶ道だが、そこはかつて子どもたちがゴムボールで野球をする路地だったのだ。ちなみに六本木六丁目は、かつて麻布北日ヶ窪町と呼ばれ、文字通り窪地になっていた。その窪地の町を大規模に造成してヒルズ(丘)にしたのだから興味深い。

六本木、京都、福岡…昭和から令和への「定点写真」に見る都市の移ろい六本木ヒルズのある六本木六丁目 撮影:2019(令和元)年5月