生活保護当事者のために法廷で
証言した政府審議会の元トップ
2013年に行われた生活保護基準引き下げに対して、撤回を求める集団訴訟が全国の29都道府県で続いている。1000人を超える当事者らが原告となった訴訟は、2020年の結審と判決を控え、現在、大詰めを迎えている。
10月10日、名古屋地裁で行われた原告側証人尋問は、大きな山場の1つとなるかもしれない。この日、証人となったのは、フリージャーナリストの白井康彦氏(元・中日新聞社)と岩田正美氏(日本女子大学名誉教授)だった。
白井氏は、厚労省が公表した引き下げの根拠が「物価偽装」と呼ぶべきものであることを発見し、内実を明らかにした人物だ。しかし今回は、岩田氏の証言を中心に紹介する。岩田氏が原告側証人として法廷に立ったこと自体、画期的な出来事であるからだ、
岩田氏は、2003年から2004年にかけて開催された「生活保護制度の在り方に関する専門委員会」で委員長を務めるなど、数多くの政府審議会で重要な役割を果たしてきた。2013年当時は、貧困と社会福祉の専門家として、社保審・生活保護基準部会の部会長代理、実質的なトップを務めていた。その基準部会が取りまとめた報告書には、「引き下げるべき」と読み取れる内容は全く含まれていない。また物価変動については、全く検討されていない。にもかかわらず、基準部会報告書は、引き下げの根拠の1つとされた。
生活保護に関連した集会や訴訟の傍聴席では、通常、年配の人々の姿が目立つものだ。現在、生活保護世帯の50%以上を、高齢者世帯が占めているからである。しかしこの日、定員76名の傍聴席には、20代・30代の人々の姿が目立った。学生だけで22名だったという。
貧困や福祉や社会保障を研究する者にとって、自らの専門性をもって政策決定に直接貢献することは、到達目標の類型の1つであろう。岩田氏は2015年まで、その目標をまさに体現してきた。
その岩田氏が、自らが関わった形で決定された政策の影響を直接受ける当事者のために、国を被告とする訴訟の原告側証人を務めるわけである。「なんとしても、その場で、この目で」と考えるのは、極めて自然だろう。この傍聴のためだけに、九州から駆けつけた大学教員もいた。