「睡眠不足」は健康の敵――。睡眠を重視する意識が急速に社会全体に広がり、浸透しつつある。だが、その一方、眠れないことに不安やプレッシャーを感じ、ますます不眠が悪化している人も。そんな人々が陥りやすい「処方薬依存」の実態を取材した。(フリーライター さとうあつこ)
最近、仕事の効率を上げるカギは「7時間睡眠」などといわれていますよね。なので、帰宅の遅い夫のため、ずぼら飯を一品だけ用意したら、さっさとベッドに潜り込むようにしています。でも、これがなかなかうまくいかないのです。「ちゃんと寝ないと。明日は朝イチで会議だし」などと焦ってしまい、気がついたら朝になっていることもしばしば。このままだと仕事に支障が出るだけじゃなく、早死にするんじゃないかと怖くなってきました――。
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病院で処方された
捕まらない薬物にハマる人々
2017年新語・流行語大賞で、トップ10に選ばれた「睡眠負債」。ちょっとした睡眠不足が蓄積されることで、脳のパフォーマンスが低下、仕事や家事の能率が下がるという。そればかりか、認知症の原因となる物質が脳にたまったり、がん細胞の増殖を加速したりする可能性もある、と専門家は警鐘を鳴らしている。
だが、睡眠を重視する意識が社会に広がった一方、負の影響も生じているのではないか。不眠への恐怖や焦りから、睡眠薬、抗不安薬が手放せなくなる「処方薬依存」とは――。
美里理沙さん(仮名・30代)は、精神科で処方される睡眠薬を毎晩10錠以上、まるでラムネ菓子のようにボリボリとかみ砕いている。おかげで日中は、頭痛や手の震え、不安、焦り、倦怠感がひどく、起き上がることもできない。もちろん、家事も育児も放棄中だ。
睡眠薬を服用するようになったきっかけは数年前のこと。育児ストレスから不眠となり、精神科に通院し始めた。最初は主治医の指示通り、1日2錠を寝る前に飲んでいた。効果は抜群で、飲むとすぐ気分が軽くなったかと思うと、何の苦もなく眠りに落ちる。朝の目覚めも爽快そのもの。子育てに追われ、孤独感にさいなまれていた理沙さんは、初めて“癒やし”に出合ったような気がした。