単身赴任はさまざまなドラマを生みます。写真はイメージです Photo:PIXTA

独身であればまだしも、妻は子どもができてからの単身赴任はいろいろと物議を醸すものだ。その距離ゆえに家族との間に「すきま風」が吹くこともよくある。現代人たちは、単身赴任とどう向き合っているのだろうか。(取材・文/フリーライター 武藤弘樹)

会社のさじ加減ひとつで
赴任地へ送られていくビジネスパーソン

 つくづく転勤とは無慈悲な文化であるように思える。会社に魂をささげて忠誠を誓うのが常識として求められていた時代からはやや変わってきているが、現代に至っても転勤の辞令はほぼ絶対的であり、会社のさじ加減1つで社員の命運はあっちからこっちへと左右される。

 転勤は人事異動のうちの1種類であるが、特に「勤務地の変更」の意を表す異動のことである。歓迎されるべき転勤は栄転であり、そうでない転勤は左遷である。一社員にとってそれが栄転か左遷のどちらであるかは一大事だが、社員の家族にとっては「結構大ごとではあるが最大の関心事」とはならない。それよりもどこに転勤させられるのか、場所の方が気になる。父が栄転すれば暮らし向きは楽になるかもしれないが、小学生の息子にとってはそのことより引っ越し先のクラスメートとなじめるかの方が心配なのである。

 筆者の知り合いで、「来季に転勤することは決定しているが場所がまだ決まっていない」というのがいて、しかし場所の候補2つが確定しており、それが「恵比寿か、ブラジル」だそうである。

 これはかなり極端なケースだが、住む場所は家族の運命をも大きく左右する。家族が父についていくのか、あるいは父だけブラジルに飛んでもらって家族は日本に残るのか。どちらがよいかは諸事情を考慮して決定がなされる。「パパだけいってらっしゃい!サンバの動画送ってね!」となれば、晴れて単身赴任の完成である。

 単身赴任はドラマの温床である。バラバラに住むことを余儀なくされた、残された家族は絆の深さを改めて確認し、あるいは「あの人いない方が晴れやかだ」と気づく。一方、「旅の空」のパパは、これも悲喜こもごもであり、単身赴任にまつわるいくつかのパターンを紹介したく思う。