子どもの虐待に関する報道が後を絶たないが、「虐待」とまでいかなくても、子どもを精神的に追い込んでしまう親はどこにでもいる――。子どもの気持ちよりも自分の世間体や見栄を優先して、思い通りに動かそうとする。子どもを罵倒する。かばんの中をあさるなど、子どもの領域を恣意的に侵害する。兄弟姉妹で露骨に差をつける…。
精神科医で、自らも母親との関係に悩んだ片田珠美氏の著書『子どもを攻撃せずにはいられない親』から一部を抜粋して、このような親の精神構造を分析する。(精神科医 片田珠美)
親による「子どもの支配」は
以前より巧妙になっている
子どもを攻撃する親の心の奥底にはしばしば支配欲求が潜んでいる。もちろん、子どもを自分の思い通りにしようとする支配欲求の強い親は、昔からいた。むしろ一昔前のほうが、親子間の支配・被支配関係が明らかな家庭は多かったのではないか。
それこそ昔の日本では、貧しさから息子を奉公に出すこともあったし、娘を遊郭に売ることもあった。子どもを単なる労働力とみなし、学校にも通わせずにこき使うようなことも少なくなかったはずだ。
こうした「あからさまな支配」は、今ではあまり見かけなくなった。一応、子どもの自由や個性を尊重するという建前になっている。ところが、表面的には問題がないように見えても、親が真綿で首を絞めるように子どもを支配している家庭が実は少なくない。精神科医として長年さまざまな親子の相談に乗ってきて、親による子どもの支配が以前よりも巧妙になっている印象を受ける。
このように親が子どもを支配する関係は、他人同士の場合と比べて厄介だ。その理由は次の二つである。