下水道が使えず、料理もできないので、家では毎日おにぎり。そんな生活が半年ほど続き、少し気分転換をしようと家族でツアー旅行にでかけ、宿泊することになったホテルでのことです。

 ホテルは事前に知らされていたものとは異なり、3人にはとても窮屈な部屋でした。日々の疲労も募り、怒り心頭に発してしまった島津さんに対して、奥さまと娘さんがかけた言葉は

「親子3人で川の字で寝られて幸せじゃない」

 というものでした。
 
 それは、島津さんが自身を省みるきっかけになりました。これを機に「家族との時間を大事にしよう」と、独立と出家得度に至ったのです。

 生活のために、働き方を大きく変えた島津さん。最後に、そんな島津さんだからこそ、今働きづめの毎日を送っている人に思うことを聞きました。

「食事を楽しみましょう、ということですね。それは、おいしいものを食べましょうとか、会話をしながら食べましょうということではありません。食事を楽しむのは、一人でもいいんです」

 五観の偈は、その食事がたくさんの人の手を経て、自分に与えられているものであり、その人々に感謝の思いをもつことの大切さを説いています。一人で食べるとしても、それは同じ。一回一回の食事の価値や大切さに気づくと、自分のことも大切に扱えるようになるのかもしれません。

「無理をすると、遅かれ早かれ身体を壊してしまいますからね」

 かつてのビジネス戦士は今、禅を通じて、一人ひとりが背負っている荷を軽くするすべを伝えているように感じました。

(栄養士・食事カウンセラー 笠井奈津子)