発売直後からAmazon1位(ビジネスとIT/SNS・ブログ)を獲得するなど大きな話題を呼んでいる『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』。同書をもとに中国の「今」を象徴するビジネスの話題を紹介する連載の第6回は、中国のIT業界で独自の進化を遂げ、社会にも大きな影響を与えている「ミニプログラム」という技術を紹介します。
テンセントがリードするミニプログラム
「ミニプログラム」とは、アプリ上で動くさまざまな細かいプログラムのことです。「アプリの中のアプリ」と理解してもらって大丈夫です。
代表的なものは2017年1月にサービスを開始したWeChat上のミニプログラムです。店舗やタクシーの予約、メニューの注文や決済など、あらゆる機能を持つミニプログラムを素早く簡単に使い分けることができます。
中国でミニプログラムといえば、このテンセント上のミニプログラムを思い浮かべる人が多く、累計のユーザー数は6億人、DAU(Daily Active User)は2.3億人を超えます(2019年1月時点)。WeChatのミニプログラムの数は2018年の初めには58万個程度だったのが、年始にはなんと倍の100万個にまで急増しました。
ただ、テンセント以外のプレイヤーも次々とミニプログラム・サービスの提供を開始しており、勢力図がいつ変わってもおかしくない状況です。2018年の夏にサービスを開始したアリババにバイドゥ、さらにバイトダンスに加えて、スマートフォンメーカー10社が共同で作った快应用連盟(クイックアプリ)という5つのプレイヤー陣が存在します。
IT業界の勢力図を塗り替える可能性も
各社が、ミニプログラムの推進に力を入れている一番の理由として、「流量(ユーザー、アクセス、滞在時間など)を確保したい」という意図があります。独立したミニプログラム群を自社プラットフォームに集中させることによって、ビッグデータを集めることができるとともに、プラットフォーマーとして確固たる地位を築くことにつながります。
ミニプログラムと同様の試みは日本のLINEもおこなっていますが、大きく異なるのが、LINEは自社完結で新機能の実装を進めるのに対し、中国はアライアンスを組みながら、他社アプリをすべて取り込もうとしている点です。いわば、各社がApp Storeのような存在を目指しているので、規模が一段階大きな話なのです。
わかりやすい例を出せば、中国国内においてEC市場はアリババによって押さえられてしまったため、後発の独立系サービスが単独で乗り込んでいくのは厳しい状況にみえます。しかし、MAUが11億人を超えるWeChatというプラットフォーム上で、自社ミニプログラムを開発してEC展開をおこなえば、巻き返しのチャンスを狙えるのです。
逆にアリババはSNS領域でテンセントに追いつくことが難しいため、MAU7億人(2019年6月時点)の決済サービス・Alipay(アリペイ)の上にあるミニプログラムを強化することで、プラットフォーマーとしての地位を確固たるものにしたい思惑があります。
ミニプログラムの使われ方
WeChatのミニプログラムの場合、ユーザーは1日に平均4~5回利用し、平均利用時間は13分。他社のミニプログラムと比較しても利用時間が長いのは、ゲームのミニプログラムを利用するユーザーが多いからです。一方、Alipay(アリババ)のミニプログラムの場合、ペイメント機能がメインであるため、ユーザーの利用時間が短い傾向にあります。
初期のミニプログラムは利用者数ランキングの上位4割をゲーム系が占有していましたが、最近ではECや検索、ムービーのジャンルの割合が増えてきています。
WeChatのミニプログラムが2018年の1年間で倍増したことについて触れましたが、そのきっかけになったのが「跳一跳」というゲームの爆発的ヒットです。このゲームの累計ユーザー数は3億人にのぼりますが、最盛期にはDAUが1.7億人に達していました。こうした人気を背景におこなわれた5日間限定の広告が、なんと3.4億円で売れたのです。その結果、「ミニプログラムには可能性がある」と多くの企業が考え、半年間で72%もの増加率を記録しました。
飲食店を大きく変えたミニプログラム
ユーザーにとっても、1つひとつのアプリをダウンロードする手間がない(使用するたびにクラウドから呼び出す)ミニプログラムは、手軽であるうえに、携帯の容量を節約できるというメリットがあります。
わたしがミニプログラムを使う一番の理由はペイメントの便利さです。個別のアプリでECを利用すると、そのつど支払い情報を登録しなければなりませんが、ミニプログラムだとその必要がありません。ミニプログラムを導入する飲食店も急増しており、2018年の第2四半期だけで85%伸びました。
たとえば、中国のぐるなび的存在の「大众点评」には、独立したアプリとミニアプリが存在します。両者のUIは大きく違うものの、使える機能に遜色はありません。
わたしが住んでいた上海のほとんどの大型飲食店にはすでにレジが存在せず、席にQRコードがあるのみです。そのコードを読み込んでミニプログラムを立ち上げることで、支払いができる仕組みになっています。QRコードのみでも決済ができるので、ミニプログラムを立ち上げるのは一見面倒にみえますが、ミニプログラムを介することで商品の注文もスマホでできるようになるのです。
スマホさえあればお客さんは注文と決済を済ませてくれるようになるので、ウェイターやレジ係を置く必要がなくなり、お店側にとっても人件費を削減できる大きなメリットになります。
ミニプログラムのプラットフォームの開発には莫大な資金力と高度な技術力が必要となるため、日本企業が実現させるハードルは極めて高いように思われます。
日本でミニプログラムが普及することはないかもしれませんが、「認証が楽で使いやすい」といったUX体験については日本企業にもヒントになる部分は多いはずです。