発売直後からAmazon1位(ビジネスとIT/SNS・ブログ)を獲得するなど大きな話題を呼んでいる『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』。
前回までは同書より、「TikTokが最強のSNSとなる理由」を解説してきましたが、今回から数回にわけて、中国の「今」を象徴する企業やビジネスの話題を紹介していきましょう。まずは、スターバックスと資本主義に挑戦するロックな企業「ラッキンコーヒー」です。
1年で2000店舗出店するLuckin Coffee
TikTokと同様に、中国で爆発的なスピードで成長しているサービスとして「Luckin Coffee(ラッキンコーヒー)」を紹介しましょう。
Luckin Coffeeは2017年末に創業した、コーヒー店チェーンを展開する中国のスタートアップです。アプリでしか注文できず、デリバリーでの営業が基本という特徴があります。
2018年の1月に1号店を開店すると、すぐさま拡大路線に入り、1年で全国21都市、2000店舗まで数を増やしました。1999年に中国展開を開始したスターバックスが20年かけて約4000店舗(2018年時点、市場シェア51%)を開いたことを考えても、Luckin Coffeeがとてつもないスピードで拡大したことがわかります。
猪突猛進に多額の資金調達を続けてきたLuckin Coffeeですが、2018年12月の決算発表で驚きの実態が判明します。なんと売上の60億円に対し、140億円の純損失が計上されていたのです。「Luckin Coffeeがものすごい大赤字を垂れ流した」と大騒ぎになったのですが、その際にCEOはインタビューで「こんなものじゃ終わりません。もっともっとお金を燃やし、(現在の2000店舗に追加して)あと1年で2500店舗開きます。それによってスターバックスの4000店舗を抜かします」と答えたのです。
その後、2019年5月には、設立からわずか18カ月という最短記録でナスダック上場を果たします。そして8月には、上場後初の決算を発表。純損失は103億円にまで拡大との報道が出ています。
投資家からの資金を積極的に燃やしながら挑戦を続けるLuckin Coffeeのスタイルは日本では想像しにくいかもしれませんが、個人的にはロックといいますか、ある意味資本主義への挑戦のように思えます(笑)。
急激な成長を実現した“中国流”のイノベーション
そもそもLuckin Coffeeは短期間でどのようにユーザーを獲得していったのでしょうか。彼らがまず初めにおこなったのは、定期的に無料クーポンを配りまくることです。日本では新規顧客に対してクーポンを発行することが一般的ですが、Luckin Coffeeが斬新なのは新規/既存に関係なく、定期的にクーポンを発行すること。値段自体も、「スタバのラテが500円なら、Luckinは380円」とスタバの1~2割引に設定されています。
ただ、それよりも効果的なのが、友人や同僚の間でWeChatを介してシェアされる「BUY5 GET5クーポン」の存在です。このクーポンを用いると、実質スタバの半額以下の価格でコーヒーを飲めることになります。ユーザーに定期的に自社サービスを使い続けてもらう習慣づけをおこなったのです(2019年8月現在、同キャンペーンは終了)。
まとめると、
①
採算を度外視した、ユーザー獲得のための金に糸目をつけない大胆なプロモーションの継続
②SNSを使った巻き込み型購入パターンの確立
が急激な成長を支えたのです。
Luckin Coffeeの影響もあってか、最近スターバックスもアリババが買収した食配サービスの「Ele.me(餓了麼)」と提携し、デリバリーサービスを始めようとしています。グローバルで覇権を握る天下のスターバックスがLuckin Coffeeの後追いを始めた状況をみると、中国企業をコピーキャットとみなし油断していた時代が終焉しつつあると感じます。Luckin Coffeeは一例に過ぎませんが、これから中国企業は、ものすごい資金とスピードで猛進し、業界を揺るがしていく虎に進化していくのです。
とはいえ、Luckin Coffeeがこのまま順風満帆に成功するかどうかは誰もわかりません。2015年にサービスを開始し、一時はシェアリングエコノミーの旗手として注目を浴びていたシェア自転車サービスの「ofo」は現在、経営危機にあると報じられています。ofoはLuckin Coffeeと同等のバラまきに近いマーケティング手法で急拡大を図ったスタートアップでした。
そもそもこうした消費活動やマーケティングスタイルは近年始まったものであり、勝てるかどうか、正しいかどうか、に関してはいつか歴史が証明するもの。今はその可否を判断することができずとも、業界を揺さぶるインパクトの大きさや、スタイルのイノベーティブさに、多くの人が魅力を感じていることは確かです。
シリコンバレーとは違った形で、中国ならではのイノベーションが芽ばえつつあるといえるかもしれません。