動画アプリ「TikTok」を、多くの日本人は一時的に流行している若者向けのサービスと誤解しています。しかしその正体は、「チャイナ・イノベーション」の集大成ともいえる最強のスペックをもつアプリであり、実際に「世界で最も人気のあるアプリの1つ」として、驚異的なDL数、ユーザー数を誇っています。

TikTokについて初めて本格的に解説した『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』より、その強さの秘密を紹介します。

日本では誤解されているTikTok

 TikTokをごく簡単に説明すれば、中国のメディア企業であるバイトダンスが運営する、基本的に15~60秒のショートムービーを投稿・閲覧するSNSです。

 このTikTokというサービスに対して、皆さんはどんな印象を抱いていますか?
 多くの方は、「10代の女子高生が踊ったり、口パク()をしているアプリ」といったイメージをお持ちでしょう。あるいは、お笑い芸人のくっきーさん(野性爆弾)や女優の新川優愛さん、上戸彩さんと小芝風花さん、中村倫也さんらが出演した数々のテレビCMを思い出す方もいるかもしれません。

※音楽や他人の音声に合わせて発声せずに口を動かす「口パク」は、動画系のSNSでは「リップシンク」と呼ばれ、広く定着している表現技法となっています。

 いずれにせよ、「若者だけが使っている流行りのSNS」というイメージが強いのではないでしょうか。実際、TikTok Japanでは「動画のプリクラ」と自らのサービス・イメージを表現していますから、その思い込みにも無理はありません。

 正直に言えば、わたしのTikTokへの第一印象も、SNOWやSnapchatのような、日本では一過性のブームで終わってしまった若者限定のアプリなのかな、というものでした。

 しかし、「若者向け」「流行りのSNS」というイメージにとらわれると、TikTokの正体を大きく見誤ります。TikTokは、Facebook・Twitter・Instagramなどを超える、世界最強のSNSとなる可能性をもつサービスであり、現在その地位に着実に近づいているのです。

 そのことを理解していただくために、まず公開されている情報から、TikTokに関するデータを確認してみましょう。ちなみに中国のDouyin(ドゥーイン、中国語表記では「抖音」)と日本版を含む世界版のTikTokは完全に別個のアプリであり、機能も違います。

・2016年9月29日に、中国のバイトダンス社よりDouyin(抖音)がリリースされる。
・Douyinの国外版であるTikTokは、現在150以上の国と地域、75カ国語以上で事業展開されている(2019年7月時点)。
・2018年9月、全米のApp Storeで最もダウンロードされた無料アプリとなった。
・2018年第1四半期に世界で最もダウンロードされたアプリとなった(4580万DL以上)。
・世界版TikTok+中国版Douyin(抖音)のMAUは5億人、DAUは2.5億人(China Securities 2019/6/28発行のレポートより)。
・今後3年以内に世界版のユーザーを全体の50%に伸ばす意向。

 驚きの数字が並んでいますね。中国でDouyinがリリースされたのが2016年ですから、たった2年で、TikTokは世界150以上の国と地域で展開されるようになり、2018年9月には米App Storeにてもっともダウンロードされたアプリに輝いたのです。

Photo: Adobe Stock

 全体のユーザー数でいえばまだDouyinが多くを占めていますが、CEOが「今後3年以内に世界版のユーザーを全体の50%に伸ばす」と宣言しているように、グローバル展開にも意欲的です。すでに「一時的なブーム」として終わる段階を超えたのは明らか、と言ってもよいでしょう。

 ではなぜ、TikTokは一時的なブームにとどまり消えていった多数のアプリの二の舞にならず、Facebook・Twitter・Instagramにもならぶ世界的なSNSになろうとしているのでしょうか。
 その理由は、大きく次の5点であるとわたしは考えています。

 1.「テキスト・画像から動画へ」という長期トレンドに沿っている。
 2.「検索からレコメンドへ」という長期トレンドに沿っている。
 3.プラットフォームとして確固とした強みがある。
 4.母体となる運営会社の実力が図抜けている。
 5.SNSとしての設計、運営戦略が優れている。

 いずれもTikTokの成功に欠くことのできない要素ですが、より本質的・長期的と思われる順に解説していきましょう。

TikTokは「テキスト・画像から動画へ」という長期トレンドに沿っている

 まず前提として、現在のSNSの利用動向を押さえておきましょう。次の図表をみてください。


 個人間の連絡手段としての用途で使われるLINEを除けば、Twitter、Instagram、YouTubeの順番で頻繁に使われていることがわかります。現時点では依然、テキストをベースとしたSNSが多く使われているといえそうです。しかし、「満足度」の観点でみるとどうでしょうか。次の図表をみてみましょう。


 先ほどの図と同じサービスが並んでいますが、順位に変動が起こっています。YouTube、Instagram、LINEの順で上位が占められていることからも、テキストよりも画像、画像よりも動きのある動画、すなわち人々はより情報がリッチなコンテンツを求めているといえそうです。

 「Instagramは画像アプリじゃないの?」と疑問に思う方がいるかもしれませんが、近年ではストーリーズ(24時間で消えてしまう、60秒以内の動画を投稿できる機能)やライブ配信機能を導入したことからも、動画に寄りつつあるSNSといえます。

 考えてみれば、この順位の変化は、決して不思議なことではありません。人は他人とのコミュニケーションを求めてSNSをしているのですから、そこで得られる情報は、原則としてリアルに近いほどよいはずなのです。好きなアイドルであれ、友人であれ、文章だけでなく、その人の声を聴き、笑顔をみたいと思うのが人間の本能なのでしょう。

 こうした傾向を踏まえると、将来的・長期的に、ある仮説を立てることができそうです。
 それは、「人々はテキストよりも画像を、画像よりも動画をコンテンツとして求めている」。あるいは別の表現として、「すべてのサービスは“動画化”していく」というものです。

テキストの動画への優位性がなくなっている

 日本の皆さんにとって、この仮説はまだ乱暴なものに聞こえるかもしれません。

 「本当に人々はテキストよりも画像を、画像よりも動画をコンテンツとして求めているの?」「テキストのほうが動画よりも優れている点は、多々あるのでは?」──そう思う人も少なくないはずです。

 たしかに、まだテキストが動画より勝っている点はあります。しかし、テキストの利点とされるものの多くは、動画に追いつかれつつあるのです。

 まず、テキストがYouTubeなどの動画コンテンツに優っていた大きな点は、「ポータビリティ」(持ち運びやすさ)の高さでした。しかし今ではスマホによって、どこでも動画をみることができます。

 昔は、動画は家のテレビやパソコンでみるものでした。持ち運びできるコンテンツは、かばんに入る本や雑誌だけだったのです。スマホが登場してからしばらくも、持ち運べるのはテキスト(メールやTwitter、Facebook)がメインで、動画は自宅やオフィスでみるものでした。

 動画が「どこでもみられるもの」になったのは、スマホだけでなく通信環境が十分に進歩し、動画サービスも普及したつい最近のことなのです(現在でも、通信速度や容量の問題があり、持ち運びやすさはまだ決して高いとはいえませんが、この部分は将来的に徐々に改善されていくでしょう)。

 もう1つ、テキストの長所としてよく言われるのが、「テキストは自分のペースで読める」、言い換えれば「時間のコントロール権がユーザーにある」という点です。当初は情報量が少ないわりにスピードも遅いYouTubeに不満を抱えていた人も少なくありませんでした。しかし、最近では倍速機能がついたり、そもそも編集の時点で間を切ったり、しゃべる部分が倍速化されたりと解決に向かっています。

 つまり、「ポータビリティ」と「時間のコントロール権」という大きな2点で、動画はテキストと同レベルとなりつつあるのです。もちろんテキストの強みが最後まで発揮される分野もあると思いますが、あらゆるところに動画が飛躍的に侵食していることは間違いありません。

スマホネイティブは動画で勉強する

 テキストが支配的だった分野で、動画が侵食している代表的なものとして挙げられるのが、「教育」です。

 これまで動画といえば、YouTubeをはじめエンターテインメント系の動画が多数を占めていました。それが、わたしたちミレニアル世代より下のZ世代()以降になると、動画=エンタメの図式が成り立たなくなっているのです。たとえば、「英語を勉強しよう」と思ったとき、わたしたちの世代であれば、まず参考書や単語帳を買います。一方、Z世代はまず英語学習コンテンツを発信するYouTubeを探します。

※2000年(もしくは1990年代後半)から2010年の間に生まれた世代のこと。生まれたときからインターネットが当たり前に存在する、真のデジタルネイティブ世代でもあります。オンラインとオフラインの境界線をあまり持たず、モバイル端末によって常に「接続」「つながっている」状態が自然です。当然、ソーシャルメディア(SNS)への参加傾向も強くなります。(参考:シマウマ用語集)

 最近知って驚いたのですが、日本でもわたしより2、3歳下の世代の人たちはみんな、YouTuberである“バイリンガールちか”さんの動画で英語を勉強しているのです。1989年生まれのわたしの世代では、まだ単語帳や文法書などの本やCDベースに勉強をしていたので、大きな衝撃でした。

 しかし、素直に考えてみれば、英語は絶対に動画で勉強したほうがいいはずです。そのほうが確実に発音もよくなるし、会話もできるようになる。でもそれは、YouTubeという新しい動画メディアが誕生してはじめて実現した選択肢なのです。

 これまでは会計を勉強しようと思っても、YouTubeにそのコンテンツがあるという発想がありませんでした。しかし、もしYouTubeに、書店と同じようにあらゆるジャンルのコンテンツが揃うようになれば、人々は自然に探しに行くようになるはずです。実際、中国でも若ければ若いほど動画で勉強をし、情報収集している人が多くなっています。

 ちなみに、わたし自身も、第一言語は日本語で中国語に関しては準ネイティブなので、中国では文章よりも動画で勉強したほうがストレスは少ないと感じます。なので、本をテキストのまま読むよりも、音声で読み上げてくれる「得到(デタオ)」というアプリを使うことのほうが多くなっています。音声を倍速にしつつテキストも追えるので、すごく便利です。

中国では通販サイトの商品レビューも動画になっている

 このように、中国ではすでにあらゆる学習系のコンテンツが動画に置き換えられているのですが、さらに進んで、オンラインショッピングの場においても、商品紹介がテキストや写真ではなく動画が主流になり始めています。
 驚くべきことに、商品の解説のページだけでなく、商品レビューさえも、テキストではなく動画に置き換わりつつあるのです。

 中国ではなにを学習するにせよ、情報収集するにせよ、動画を通じておこなうのが当たり前になりつつあります。しかし、こうしたあらゆるコンテンツの動画化は中国に限定される話ではありません。

 事実、日本においてもYouTubeやTikTokの視聴率や浸透度は右肩上がりで伸びています。昔はcookpad(クックパッド)でテキストのレシピを調べていたのに、現在はkurashiru(クラシル)に代表される動画のレシピがその需要を置き換えつつある、という動きもわかりやすい事例でしょう。

 社会の大きな潮流をみれば、今後もあらゆるジャンル、タイプのコンテンツで動画が増えていくのは自然な流れなのです。
 日本において、中国と同程度のレベルまで動画が浸透するのが半年後なのか来年なのか、3年後なのかはわかりません。ただ、その変化は必ず訪れる。いやすでに起こり始めたと言ってよいでしょう。

 加えて、2020年の実用化に向けて開発の進む新技術「5G(第5世代通信)」()もTikTokをはじめとした動画サービスの後押しになるはずです。
 Instagramのような画像サービスは、3G(第3世代通信)よりも高速化された4G(第4世代通信)がインフラとして普及したことで社会に浸透しました。4Gよりも格段に通信速度の速い5Gへの移行によって、動画コンテンツが社会の隅々まで浸透する時代がやってくるのです。

※第5世代移動通信システムの略称で、スマホなどの通信に用いられる次世代通信規格のこと。5Gは4Gに比べて通信速度は20倍、遅延は10分の1、同時接続数は10倍といわれています。(参考:KDDI IoTポータル)

中国版Twitter「Weibo」も動画サービスへ大転換

 中国のSNS内での動画事情も、ここで少し補足しておきましょう。
 2018年、中国版のTwitterとして有名なWeibo(微博)は、動画サービスへ大転換することを発表しました。ショートムービーの隆盛に押されてユーザー数の増加率が鈍化し始めたことに加え、Weibo内の投稿自体も動画のコンテンツが増えたことで、プラットフォームとして根本的な対応を余儀なくされたのです。
 

 こうした流れはなにもWeiboに限った話ではありません。中国では、テキストサイトやニュースアプリなど、少しでもSNS的な要素を含むサービスでは、ショートムービーの機能が入っていないものを探すほうが難しいくらいです。どんなサービスでも必ず、ライブ配信かショートムービー、あるいはその両方を機能として備えています。

 日本では文章がほとんどのブロガーも、中国では音声や動画で発信している、というのもわかりやすい事例でしょう。

 最近の中国では、文章ではなく、音声でブログを発信する方針に切り替えるブロガーが増えています。また、Vlog()と呼ばれる、文章ではなく映像を用いて、ブログのように日常生活を描くことも2018年ごろからブームになっています。これは実際にみてみないとうまくイメージができないかもしれませんが、「おしゃれな自分をみせたい」というInstagram的な動機からのコンテンツではなく、本当に日々の日常を映しているだけ、という内容なのです。

※Vlog(ブイログ)は2012年に初めてYouTubeで登場したといわれています。2018年上半期から中国でもVlogがホットワードとなり、TikTokを運営するバイトダンス社もそのビジネス化に乗り出しています。

 文化や国民性の違いもあるので、変化の度合いがどの程度になるかは不明ですが、日本においても、今後数年で一気に動画がSNSやプラットフォームを侵食し、一般の人も動画で発信をし始めるというのは、ほぼ確定した未来なのではないでしょうか。