「表現の自由」はどこまで認められるのか?国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展対応では議論が巻き起こっていたが、児童書でも未就学児向けの乗り物図鑑に自衛隊車両が含まれていることが問題視され、出版側が増刷の中止を発表した。
自衛隊車両の掲載は
何が問題だったのか?
「3~6歳向けステップアップ知育ずかん『はじめてのはたらくくるま』」(以下『はたらくくるま』)を編集制作したのは講談社ビーシーで、同社が手掛ける就学前の子どもを対象にした人気シリーズ「はじめてのずかん」のうちの1冊だった。
この図鑑で問題とされたのは、ミサイル護衛艦や潜水艦、戦闘機など一般的には「くるま」と呼ばないものも含めた自衛隊の車両が、全28ページのうち約20%当たる6ページ弱で取り上げられていることや、表紙にはバスやパトカーなど複数の写真が掲載されているが、その1枚に自衛隊車両の上で銃を構えた自衛隊員の写真が使われていることで、子どもへの精神的な影響を懸念されたのだ。
『はじめてのくるま』に対し「戦争に利用する乗り物を普通の車と同列に掲載することに大きな不安を感じ幼児向け絵本として不適切」と講談社ビーシーに意見書を送ったのは、日本子どもの本研究会、親子読書地域文庫全国連絡会、日本児童文学者協会、新日本婦人の会など、子どもの教育や環境について長年向き合い、向上や改善を担ってきた団体であった。
子どもの本のコンテンツについて、制作側の表現の自由はどこまで認められるのかを問う議論は、これまでも「性」や「暴力」の表現などでたびたび行われてきた。
だが、この図鑑の自衛隊車両掲載はこれまでの議論とは少し異なっている。なぜなら、自衛隊は職業として公認されており、車両にも違法性はない。子どもへの直接的な被害や悪影響を受ける要素が見当たらない中で、「一般車両との並列が不安」だからという理由での不適切との指摘を受けての増刷中止には、「表現の自由」として疑問が残るものだった。