被災地では今も、多くの人たちが生活となりわいの基盤を失ったままだ。

 堤防決壊の原因で最も多いのは、大雨で川の流量が増え、堤防を越えてあふれる「越水」によるものだ。

 土で出来ている堤防は水に浸食されやすいため、堤防の川側の斜面(表のり)はブロックなどで覆っている。しかし、陸側の斜面(裏のり)には何の対策も施されていないので、あふれ出た水が裏のりを洗掘して崩し、堤防の崩壊(破堤)につながる。

 この弱点をなくすため、建設省(国交省の前身)の土木研究所が開発したのが、「耐越水堤防」だ。

 従来の堤防に手を加え、越水しても堤防は陸側から浸食されにくいように、「裏のり」を遮蔽シートやブロックなどで覆って強化し、「堤防の最上部(天端〈てんば〉)」と「裏のりの最下部(のり尻)」も洗掘されないようにするものだ。

「アーマー・レビー(よろいをまとった堤防)」「フロンティア(最先端)堤防」などと呼ばれるこの堤防強化工法は、1988~98年に、加古川(兵庫県加古川市、7.2キロメートル)や那珂川(茨城県水戸市・ひたちなか市・那珂市、9.0キロメートル)など9河川で施工された。

 堤防を強化するには、堤防のかさ上げという方法もあるが、裏のりの幅を広げる必要があり、用地買収などに費用も時間もかかる。それに対し、耐越水堤防は比較的安価にすぐに実施できるのが利点だった。

 建設省は全国的な普及をめざし、2000年3月、設計方法を記した「河川堤防設計指針」(第3稿)を策定し、全国の地方建設局や都道府県に通達した。

 ところが、わずか2年後の2002年7月、この設計指針は廃止される。

 これで耐越水堤防は国が認めない工法となり、普及は止まった。

ダムやスーパー堤防建設の
根拠がなくなるのを恐れた?

 国交省はなぜ態度を急変させたのか。

 当時、川辺川ダム(熊本県)の建設をめぐって住民討論集会が開かれており、ダム反対派が「耐越水堤防にすれば、大雨が降っても堤防は決壊しないから、洪水を防ぐためのダム建設は不要になる」と主張していた。

 このため、耐越水堤防はダム推進の邪魔になると判断したと考えられている。

 それから約20年がたったが、かつて建設された耐越水堤防は成果をあげている。

 石崎勝義(いしざきかつよし)・旧建設省土木研究所次長が昨年3月、加古川の耐越水堤防を視察して調べたところ、2004年の豪雨でもびくともしなかったという。(石崎勝義『堤防をめぐる不都合な真実』/『科学』2019年12月号)

 今年の台風19号では、那珂川で堤防が3カ所で決壊したが、耐越水堤防に強化された箇所は決壊していない。