昨年12月、日本漢字能力検定協会は、2018年の世相を漢字一文字で表すと「災」であると発表した。4月の島根県西部地震、7月の西日本豪雨、9月の北海道胆振東部地震など、災害の多い年だったことによるものだ。しかし、専門家によれば、東京で同じような自然災害が起こると、尋常ではない被害が生じるという。自然災害に対する防災研究者である、東京大学大学院の片田敏孝特任教授に話を聞いた。(清談社 福田晃広)

東京では約258万人が
「海面下」の低地に居住

江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)は水害リスクが高いと専門家は警鐘を鳴らしています。伊勢湾台風を超える高潮が発生すれば、江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)は避難だけで3日もの時間がかかるうえに、2週間も水没すると予想されている Photo:PIXTA

 東京で起こる可能性がある自然災害として、よく例に挙げられるのが「首都直下型地震」だ。

 内閣府によると、東京都大田区付近の直下でマグニチュード7.3の大地震が起こった場合、最大死者約2万3000人、倒壊・焼失する建物は約61万棟、経済的損失が約95兆円と公表している。

 当然、この被害も甚大であるが、最近にわかに問題となっているのが高潮による水害だと、片田氏は指摘する。

「高潮とは、台風などの低気圧によって起こる高波と海面上昇のこと。当然、首都直下型地震やその影響による津波も大きな問題です。ただ確率的には地震と違い、水害のような気象災害は、毎年リスクがあります。しかも、近年は地球温暖化の影響を受けて、今年7月に起きた西日本豪雨のような膨大な雨、台風の巨大化にともなう高潮など、水害の危険性が増しているのです」(片田氏、以下同)

 東京が台風によって大きな被害を受けたのは、1947年の「カスリーン台風」にまでさかのぼる。当時は、膨大な大雨の影響により、利根川や荒川、渡良瀬川で破堤し、多くの家屋が倒壊・流失、浸水。死者は約1100人にも及んだ。

それ以来、東京では71年間、大規模な水害は起きていないのだが、当然ながら、再び起こらないという保証はどこにもない。片田氏によれば、東京でも特に水害のリスクが高い地域は、東部に位置する江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)だという。

「約258万人住んでいるこの地帯は、海抜ゼロメートルといわれていますが、実は海面下のマイナスメートル地帯。つまり、海面より下に258万人がいて、それらを守っているのが堤防1枚のみという大変危険な状態なのです。もし大規模な浸水が起これば、人口の9割以上に及ぶ、250万人が隣県などに広域避難する必要が出てきます」