加藤嘉一氏は、国際コラムニストとしての言論活動のため、またテレビなどのメディアの出演や執筆のため、毎週のように拠点としている中国以外に、さまざまな国や地域に実際に足を運び、現地の人々との交流を欠かすことはない。自身のコーナーを持つBS朝日『いま世界は』の取材で訪れたインドネシア、ジャカルタでは、スラム街で出会った少女から忘れてはいけない大切なものを得たという。それは何だったのか。番組では語りきれなかったストーリーをお届けする。

気合の塊、ジャカルタ

空港出口には、むせ返るほどの熱気が充満していた  Photo by Yoshikazu Kato

 5月25日の午後、私はインドネシアの首都ジャカルタに降り立った。入国審査を済ませ、空港の出口へと向かう。総人口(約2億3000万人)の88%がイスラム教徒というだけあって、女性の多くが顔と手以外を隠している。一方、中国系の人たち(華僑)もいて、ムスリムとは違う風貌をしている。服装、背丈、肌の色、振る舞い……、空港を出て一瞬で、世界でも稀に見る「多様性」のある国だとわかった。

 初めて感じる光景に、私のなかで生まれたのは戸惑いではなく好奇心だった。空港の外に出ると、思わず「うっ!」と唸ってしまった。暑かったからではない。原因は、その熱気だった。

 停車場所を奪い合うために、ドライバー同士が喧嘩をし、警備員と掴み合いになっていた。他のドライバーたちの運転も乱暴だ。観光客を狙った客引きもすさまじい。私が「No, thank you」と言っても、資料を見せながら後ろについて来て、腕を掴んできた。道路脇では売店の女性が冷たい飲料を私に売ろうと、精一杯の笑顔を見せていた。

 海外取材では、見知らぬ人とでも、目が合って、心が通ったと直感できれば、必ず手を差し出し、握手を求める(私は日本では「空気を読んでいない」と排除されるのでやらないが)。ほとんどの場合、そこから会話が生まれる。この日も、空港道路脇で地べたに座っているマレー系の労働者数人に、英語で話しかけてみた。

「日本から来ました。初めてのインドネシアです。貴国を理解し、好きになって、一人でも多くの日本人に真のインドネシアを伝えられるように頑張ります」

 そういって、手を差し出した。英語が通じたのかは定かではないが、相手も立ち上がって思いっきり私の手を握り返してきてくれた。ものすごい握力で手が痺れんばかりだった。