『8割の人は自分の声が嫌い』(KADOKAWA)の著者で、NHKラジオの番組「こころをよむ」にご出演されていた、山崎広子(「崎」のつくり大は立が正式名称)さんという方がいます。認知心理学をベースに、人間の声が持つ自他への影響力を研究されている方ですが、彼女は人の声を聞くだけで、その人の年齢から体型、体調、さらには性格や成育歴までのおおよそを言い当てることができると言います。趣味は国会中継を聞くことだそうですが、答弁を聞いていると、どの政治家が嘘をついているかも、すぐにわかると言います。

 山崎さんによれば、大半の人は自分の「本物の声」、それを彼女はオーセンティック・ヴォイス(authentic voice)と呼んでいますが、それを見つけていないのだそうです。本物の声とは、その人の心身の恒常性に適った声であり、無理なく出すことのできる心地よい声のことです。私はそのような声とは、根源的な生命から来る「命の声」なのではないかと思います。赤ちゃんは、周囲の大人の思惑などお構いなしに思い切り泣き叫びます。あれもまた「命の声」です。自分が志した仕事に成功し、自律した生活によって健康を謳歌しているような人は、じつにハリのある声を出しますが、それも揺るぎのない自信から来る「命の声」です。

 さらに、現代人は自分のオーセンティック・ヴォイスを知らないまま、どこからか借りてきたような声や作り声で話す傾向があると山崎さんは指摘しています。また戦争・経済恐慌・自然災害などによって、社会不安が高まってくると、人の声は総体的に高くなると言います。

 声に対して意識的なのは男性より女性のほうが多いのではないかと思いますが、作り声が多いのも女性です。とくに愛嬌を振りまこうとして上ずったような声を出す若い女性のことを、山崎さんは「クレーン女子」と呼びます。まるでクレーンに吊り上げられたような声だということです。そんな吊り上げられたような、地に足が着いていないような作り声で生活していれば、本音と建て前が大きく乖離してしまい、生きづらくなるのは当然ではないかと私も思います。

 自分のオーセンティック・ヴォイスを見つける手段として、まず山崎さんは自分の声を録音して、何度も聴き直すことを勧めています。録音した自分の声を聴いたことのある人はわかると思いますが、自分が耳で聞いている声と実際に外に出ている声は違います。さらに、たいていの人の声には、相手には見せていないと思っている感情もさらけ出されているそうですから、録音して客観的に聞くことが大事だそうです。

 そしてその録音した声の中から、自分がいいと思った声を見つけ、その声を出したときの状況や心理状態などを思い出しながら、その声を出した原因を探っていくことが、オーセンティック・ヴォイスを手に入れるために効果的な方法だと言っています。