デジタル技術の進歩は、社会全般にわたる新たな倫理上の課題を生み出している。そして今また、法の執行と、携帯電話データの暗号化によるプライバシー保護との間での、民主主義社会における争いが起きている。
ウィリアム・バー米司法長官は13日、アップルに対し、政府のために2台のiPhone(アイフォーン)の暗号ロックを解除するよう要求した。その目的は、サウジアラビア人の空軍士官候補生が先月、フロリダ州ペンサコーラの海軍訓練施設で3人の水兵を射殺したテロ事件の捜査だった。バー氏は「今回の状況は、デジタル化された証拠へのアクセスを可能にすることが重要である理由を、明確に物語るものだ」と語った。
このバー長官の発言は、政府によるテロ捜査に不可欠な情報の提出をアップルが拒んでいることを示唆している。しかし、米連邦捜査局(FBI)が13日に、ソーシャルメディアや一連の聴取、42テラバイトに及ぶデジタルメディアなど他の情報源から、多くの手掛かりが得られたと誇らしげに発表したこともまた事実だ。こうした手掛かりの中には、昨年9月11日に今回の銃撃犯がソーシャルメディアに投稿した、「カウントダウンが始まった」というメッセージも含まれていた。
アップルは事件当日の12月6日、FBIから最初の情報提供要請を受けた際、数時間のうちに返答した。アップルはそれに続く6件の要請に対し、クラウドサーバー上の情報、アカウント情報、複数のアカウントの取引データなどを提供するという対応を取ったとしている。アップルが事件に関係する2台目のiPhoneの存在を知ったのは1月6日だった。その2日後、同社は1件の提出命令を受け取った。
アップルは協力を続けているものの、iPhoneに侵入する特別なソフトウエアを作って、FBIがデバイスに保存されている情報を入手できるようにはしていない。法執行当局のために「バックドア」を作ることもしないだろう。バー氏はこの拒否について、アップルやその他の米国のハイテク企業が法執行当局への手助けを拒否することで、国家安全保障よりも商業的利益を優先していることを意味すると述べている。
アップルは確かに商業的利益を追求しており、プライバシー保護はそのセールスポイントの1つだ。しかし、アップルによる暗号化とセキュリティー保護には、重要な社会的利益と公共の利益がある。サイバースパイ行為が増えている中で、銀行口座や健康記録を含む、より個人的な情報をスマートフォンに保存して送信する人々が増えているという状況において、暗号化はますます重要になっている。
暗号化されたプラットフォームで犯罪者もやりとりするだろうが、暗号化は企業幹部、ジャーナリスト、政治家、非民主主義社会の反体制派を含む全てのユーザーを保護する役目も果たしている。アップルが米政府向けにiPhoneのロックを解除する特別な鍵を作れば、良からぬやからもそれを悪用できることになる。