――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」
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この2年間、夜中に無数のツイートが投稿され、その後に大量の記事が紙面をにぎわせてきたが、2018~19年に展開された米中の貿易バトルロイヤルは終わりに近づきつつある。想定されていた目標の一部は達成されたが、多くは未達のままだ。
この最も永続的な影響は、米中関係全般の著しい急速な悪化だ。米大統領選が本格化する中、貿易を巡るあからさまな敵対は当面鳴りを潜めるかもしれないが、常に米中関係の底流にある技術、安全保障、イデオロギーを巡る対立は、この激しい紛争によって加速した。投資家は向こう数年、この結果に対処することになる。経済的な「デカップリング(分離)」はコストを押し上げ、二酸化炭素排出などの問題に関する協力を難しくし、アジアでの軍事衝突リスクを高め、技術の買い手は競合する米中のシステムや規格のどちらかの選択をますます迫られるようになる。
合意そのものは、見かけ以下でもあり以上でもある。大半の関税が当面は残り、農家を中心とする米輸出業者は、中国による大幅な輸入拡大の恩恵をある程度受けることになる。
しかし、1貿易相手国だけに的を絞り、1国の貿易赤字全体を是正しようとするのは、大量に空いた堤防の穴を指1本でふさごうとするようなものだ。中国は米国産の豚肉や製品の購入を大幅に増やすかもしれないが、それは米国産品の価格を押し上げ、自国や他の国外市場で魅力を失わせることになる。つまり、対中輸出は増えても、他地域への輸出は恐らく大幅に減り、場合によっては輸入減少分が相殺される可能性もある。
中国に狙いを定めた手法が昨年もたらした効果は、これを如実に表している。経済調査会社CEIEのデータによると、2019年11月までの12カ月における米国の対中貿易赤字は前年同期よりも560億ドル(約6兆1530億円)減少した。しかし、他地域に対する貿易赤字は490億ドル増加し、減少分の9割近くが相殺された。米国全体のモノの貿易赤字はわずか70億ドルの減少にとどまった上、その大半は石油の純輸入額の減少によるものだった。合意がもたらす最大の短期的影響は、貿易紛争そのものが生み出す有害な不確実性の一部が単に取り除かれるというだけだ。