「マヌケ」という言葉は、「バカ」と混同されがちだけど、「マヌケ」という言葉を使っていたら人間関係も仕事関係も良くなっていくし、マヌケであればあるほど運はたまっていくよ!
そんな、欽ちゃんのあったかい言葉が詰まった本『マヌケのすすめ』が、1月29日に配本されます。この連載では『マヌケのすすめ』から、とくに心に響く部分を抜粋して、萩本欽一さんの言葉を紹介していきます。(撮影/榊智朗)

萩本欽一 「バカ」を「マヌケ」に言い換えるだけで、会社も家庭もたちまち平和になると思うよ

無駄な我慢を強いてもしょうがない。
ノビノビと仕事したほうがいいに決まってます。

 ほら、今って、会社での働き方みたいなのが問題になってるじゃない。
 パワハラとかセクハラとかサービス残業とか、会社ってこんなにつらい場所なんですという話が、毎日のように出てくるよね。
 とくに上司と部下の関係っていうのが、すごく難しくなってる。

 たぶん最近は、上司が部下に向かって「このバカ!」なんて言ったら、パワハラ扱いされちゃう。
 でも、実際にはまだまだ言ってる上司は多いんじゃないかな。
 口には出さなくても心の中で「このバカ!」と思ってると、それが顔に出て部下は萎縮しちゃうよね。

 怒られるとすぐ辞めちゃう人が多いのは、上司が「バカ!」っていう言葉を使ったり心に思い浮かべたりして部下を叱ってるから。
 だって「バカ」っていうレッテルは極めて不愉快だし、自分はどうしようもなくダメな人間だって気持ちになっちゃう。

 若い人は我慢が足りないとか、そういう問題はまた別にあるけど、無駄な我慢を強いてもしょうがない。
 上司の辞書から「バカ」という言葉を追い出して、その代わりに「マヌケ」という言葉を当てはめたら、日本の会社はずいぶん働きやすい場所になると思うよ。

 部下が失敗したときに、上司が「マヌケなことやっちゃったね」と言えば、部下も反省はもちろんするとしても「あ、許してくれてるんだ」と感じてホッとできる。
 緊張感が足りないんじゃないかって心配する人もいるかもしれないけど、ビクビクしながら仕事してたらまた失敗するだけ。
 ノビノビと仕事したほうがいいに決まってます。

 夫婦だって同じ。
 「ウチの妻はバカで」とか「ウチの夫はバカで」というのは、離婚を覚悟しているとき以外は言っちゃいけない。
 「ウチの妻はマヌケで」と言われたら、「あら、いい奥さんをもらいましたね」が正しい反応です。
 「ウチの夫はマヌケで」も、「そりゃ困りましたね」なんて返す必要はありません。
 ノロケだと思って聞いていればいい。

 パートナーのことを「ほんとバカで」と言えば言うほど、言ってる当人が心が狭そうに見えて値打ちを下げちゃうよね。
 「ほんとマヌケで」だったら、逆に言っている人の株が上がっちゃう。
 ああ、相手の欠点を許す心の幅があるんだなって。
 どんな夫婦だって、お互いに気に入らないところはあるだろうけど、「マヌケだねえ」と呆れておけばいい。
 結局はお互いさまなんだから。

 「バカ」を「マヌケ」に言い換えたら、会社も家庭もたちまち平和になると思うよ。
 「マヌケ」がもたらしてくれる平和。
 うん、なんかマヌケでいいんじゃないかな。

(本原稿は、萩本欽一著『マヌケのすすめ』からの抜粋です)
*撮影協力/駒澤大学