デジタル・プロレタリアートが生まれている

マルクス・ガブリエル
マルクス・ガブリエル
1980年生まれ。史上最年少の29歳で、200年以上の伝統を誇るボン大学の哲学科・正教授に。西洋哲学の伝統に根ざしつつ、「新しい実在論」を提唱して世界的に注目される。また、著書『なぜ世界は存在しないのか』(講談社選書メチエ)は世界中でベストセラーとなった。NHK・Eテレ『欲望の時代の哲学』等への出演も話題に。他著書に『「私」は脳ではない』(講談社選書メチエ)、『新実存主義』(岩波新書)、『神話・狂気・哄笑』(S・ジジェク他との共著、堀之内出版)など。
Photo by Pere Virgili

 2019年5月1日の「エル・パイス」(スペインの新聞)のインタビューでも述べたことですが、我々は自分たちがデジタル・プロレタリアート(無産階級)であることに気づいたほうがいい。一つ、あるいは複数の企業のためにタダ働きしているのですから。人類史上、こんな状況は一度も起こったことがありません。GAFAは「我々はビッグデータを吸い上げる代わりにたいへん便利なサービスを無料で提供している」などと言います。でも、実質無料ではありません。我々は気づかないうちに彼らのために働いているのですから。

 たとえば、あなたが今フライドポテトを食べたいと思ったとしましょう。そこでボンの町にあるフライドポテトの屋台に行くと、「この店のポテトは無料です」と言われた。それはいい、いただこう。でも店員はこう続けます。「ポテトを受け取る前にあの畑からじゃが芋を採ってきなさい、そうしたら揚げてフライドポテトにしてあげましょう」と。「じゃが芋を採るのも無料です。ただ行って採ればいい、無料開放されています。採って持ってきなさい」と、こうです。

 その実態は、フライドポテト会社のために働くということです。フライドポテトを無料提供ですって?それは無料ではありません。これがGAFAの行っていることです。彼らは何も無料で与えてくれてやしません。トリックです。いくばくかの広告収入はあるかもしれないが、本当の収益は我々のタダ働きから来ているのです。

 我々はそのことに気づいていません。それがトリックです。なぜなら我々の労働に対する概念がひどいものだからです。我々は皆、マルクス主義的な労働概念を持っています。実はマルクス主義の労働観はそこまで間違っているわけではないかもしれませんね。マルクス主義における労働とは、肉体的・活動的な現実を別の形に変換することを指します。木を削ってテーブルを作る、これが労働です。

 インターネットではこれがどう起きるかというと、バーベキューパーティ、つまり肉体的・活動的な現実を開催し、写真を撮る。これが変換です。その変換した写真をアップする。アップも変換に当たります。

 それでも我々はインターネットに関して、「それが物質的なものではない」という素朴な労働観を持っている。これが間違いです。(情報空間でのやりとりは)精神的なものだと思うかもしれませんが、インターネットは完全に物質的なものです。サービスも半導体チップも物質的なものでしょう。それがインターネットです。一定の方法で組み立てられた配線、チップ、電磁放射線の集合体です。我々は、その事実にまったく気付いていません。

 最近の調査では、我々は1年間のうち約4カ月もネットをして過ごしているといいます。1年のうち4カ月も、びた一文くれない人間のために働いて過ごしているのです。彼らは何かしらのサービスをくれているかもしれません。でも実際は、そのサービスで得られるものより多くの代償を我々は支払っているんです。