「相手を大切にする」と自分も変われる

 その日から少しずつ、妻にかける言葉が変わったというタケシさん。これまでは、「もっと○○しようよ」「外に一緒に行こう」「ご飯を食べに行かない?」など、どこかで彼女を動かそうという気持ちで言葉を発していましたが、その日妻に伝えたのは、「そうだよね、今は寝てたいんだよね。寝てたいんだったら、寝てていいさ。僕はいつでもそばにいるからね」。

 そう伝えた後、驚いたことにタケシさん自身がとても楽になったそうです。

 これまでは「妻が苦しんでいるから、自分が何とかすべきだ」「妻が変わらないのは自分の努力が足りないせいだ」と思って、自分を責めていました。そして「自分も、実はしんどかった」ということに気づいたのです。「いいよ、そのままで」と思えて、それを言葉に出すことができて、それから、肩にあった重い荷物が一気に消えた気がしたとタケシさんは言います。

 タケシさんの接し方が変わって3カ月ほど経ったころから、奥さんは起き上がって、彼が持ってきたお茶を一緒に飲むようになり、さらに、タケシさんが作った朝食を食べるようにもなりました。そして、「2年経った先月は、夫婦で一緒に旅行に行きました」と、晴れ晴れした顔でタケシさんは教えてくれました。

「アサーティブ」の目的は相手も自分も幸せになること

 タケシさんのこのストーリーから学んだことは、「『誠実になる』とは、自分が気持ちよくなるために相手を変えることではない」ということです。自分が本当に大切にしていることを、自分の中にストンと落とす自分が満足すればよいのではなく、相手が幸せになることが自分の幸せにつながるのだと“わかる”こと。生身の人間という相手を、自分の「そうあるべき」フィルターを通さずに見ること。そして、そのままの相手をOKとして、心に迎え入れること。相手を大切にするというのは、そういうことなのでしょう。

 しかし、大切にしたい相手の気持ちを、そのまま受け止めるというのは、しんどい作業かもしれません。それは、「相手にこうあってほしい」という自分のコントロールの欲望をいったん捨てて、自分の鎧を脱いで無防備になることだからです。