J1争いの苦悩から絶好調へ
昨夏に訪れたターニングポイントとは

 マリノス戦でも相手だけでなく味方の意表を突くスルーパスから、元日をもって引退したダビド・ビジャに代わる新外国人FWドウグラス(清水エスパルス)の初ゴールをアシストしている。リーグ戦の開幕を前にしてイニエスタの一挙手一投足から放たれる、絶好調のオーラの源泉をさかのぼっていくと、ヴィッセルを取り巻く状況が鮮やかに好転した昨夏に行き着く。

 16シーズンも在籍したバルセロナでは、スペインの国内外で実に32個ものタイトルを獲得。イニエスタ自身をして「勝者のプロジェクト、というものにずっと携わっていた」と言わしめた、栄光の二文字に彩られたサッカー人生。しかし、2018年7月に加入したヴィッセルで暗転する。

 待っていたのはタイトル争いではなくJ1への残留争い。2018シーズンの8月から9月にかけて5連敗を、昨シーズンの4月から5月にかけては7連敗を味わわされ、監督が交代するたびにクラブとして目指す方向性にもブレが生じ、迷走する出口の見えないトンネルに迷い込んだ。

 ターニングポイントは昨夏に訪れた。イニエスタ加入後で延べ4人目の監督で、6月から指揮を執っていたドイツ人のトルステン・フィンク監督の指導力と、夏の移籍期間に加わったベルギー代表DFトーマス・フェルマーレン(バルセロナ)、ベテランGK飯倉大樹(マリノス)、ワールドカップ日本代表DF酒井高徳(ハンブルガーSV)の個の力がヴィッセルを生まれ変わらせた。

 最終ラインを4バックから、左からフェルマーレン、大崎玲央、ブラジル人のダンクレーで形成される3バックに変更。フェルマーレンの上手さと濃密な経験、春先に加入していたダンクレーの強さと高さが生かされる形になったことで、課題だった失点禍が次第に克服されていった。

 中盤の底に入るアンカーには、けがの連鎖に苦しんだバルセロナ時代から一転して、コンディションを取り戻してきたセルジ・サンペールが君臨。左右対の形で並ぶインサイドハーフ、イニエスタと日本代表としても豊富な経験を持つ山口蛍を後方から攻守両面で支えた。

 左右のウイングバックには酒井と、常勝軍団・鹿島アントラーズから加入した西大伍が攻守両面で存在感を発揮。最前線ではバルセロナおよびスペイン代表でともに戦ったビジャ、そして後に森保ジャパンに招集されるJリーグ屈指の韋駄天、古橋亨梧がゴールを狙い続ける。

 シュートストップと足元の技術に長けたGK飯倉を最後尾に置く、紆余曲折をへて手にした最適解とも言える布陣で天皇杯を勝ち抜き、新国立競技場のこけら落としマッチとなったアントラーズとの元日決戦を制した。手応えが確信へと変わったのか。美酒に酔ったニエスタはこんな言葉を残している。

「このクラブに来て1年半ぐらいが経ち、いい時期もあれば悪い時期もあった中で、こうした形でタイトルを取れた。クラブがさらに成長していくための、重要な分岐点になると感じている」