イニエスタの日本デビュー戦
写真:YUTAKA/アフロスポーツ

ヴィッセル神戸に加入したスペインの至宝、アンドレス・イニエスタ(34)が早くも眩い存在感を放っている。後半途中から注目のデビューを果たした7月22日の湘南ベルマーレとの明治安田生命J1リーグ第17節では、残念ながらリードを許していた悪い流れを引き戻せずに完敗を喫した。しかし、ホームのノエビアスタジアム神戸で見せた一挙手一投足を介して、チームメイトだけでなく対峙したベルマーレにもさまざまな魔法をかけた。ラ・リーガ1部の名門FCバルセロナと無敵艦隊と畏怖され、スペイン代表で一時代を築いた稀代のプレーメーカーは、猛暑の中でコンディションをさらに上げ、日本中のサッカーファンを魔法にかけようと腕ならぬ脚を撫す。(ノンフィクションライター 藤江直人)

志願して炎天下のピッチで練習する姿も
滲み出る「強い気持ち」と「謙虚さ」

 初めて覚えた日本語は「アツイ」だった。ヴィッセル神戸の全体練習に初めて合流した7月20日。日本列島を襲っていた歴史的な猛暑の中で、新しい仲間たちが異口同音に繰り返した「暑い」に興味を抱いたアンドレス・イニエスタは、さっそく通訳を介して「アツイ」の意味を知った。

 トップチームの練習は原則として午前中に行われるが、それでも容赦なく太陽光線が肌を焦がし、ちょっと動いただけでも汗が噴き出してくる。まさに逃げ場のない神戸市内の練習場のピッチへ、スペインの至宝はすすんで飛び出していった。新天地でのデビューから一夜が明けた7月23日のことだ。

「一日でも早くいいコンディションにしようという、強い気持ちと謙虚さを感じますよね」

 イニエスタに「8番」を譲り、新たに「7番」を背負ったMF三田啓貴が、感銘の表情を浮かべながらイニエスタの行動を振り返る。ホームのノエビアスタジアム神戸で湘南ベルマーレに0‐3で敗れた、22日の明治安田生命J1リーグ第17節で出場した選手たちは、実は23日の練習で室内調整を言い渡されていた。

 暑さによって身心に蓄積したダメージが考慮されたためで、後半14分から投入されていたイニエスタも室内トレーニング組の対象だった。しかし、志願する形で炎天下のピッチに立ち、試合に出なかった選手たちと約1時間、ミニゲームを含めたすべてのメニューを積極的に消化した。

 脳裏には前夜に味わった感動と興奮、そして悔しさが駆け巡っていたはずだ。イニエスタが準備を始めただけで歓声が上がり始め、実際にピッチへ足を踏み入れた瞬間、そして約3分後に最初にボールを触った瞬間と今シーズン最多、2001年10月の開場以来の歴代でも3位となる2万6146人で埋まったスタンドから耳をつんざくような大歓声が沸きあがった。