「財政破綻」という
悪魔の囁き

 ギリシャが実質的に財政破綻状況にあることは明らかだ。欧州諸国の支援がなくなれば、ギリシャの財政は一日たりとも保たない。誰もギリシャの国債を持とうとしないからだ。

 財政を健全化するためには、増税と歳出削減を進めなくてはいけない。ギリシャの財政状況の深刻さを考えれば、増税も歳出削減も相当踏み込んだものにならざるをえない。公務員の大幅削減、年金の支給開始年齢の引き上げ、消費税の大幅アップ、医療費の個人負担増、文化的・社会的なさまざまな活動に対する公的支援のカット──。

 しかし、こうした大胆な財政健全化策を打ち出せば、多くの国民の生活が破壊されかねない。だから、ギリシャが本当に財政健全化を果たせるのかどうか疑問を抱いている人が多い。

 財政健全化はマクロ経済的にも難しい面がある。増税策を採るほど、そして歳出カットをするほど、ギリシャの景気は悪化していく。景気が悪化すれば税収はますます落ち込んでしまう。財政健全化策がギリシャ経済を苦しめ、結果として財政状況がますます厳しくなるという悪循環に陥っているのだ。

 ギリシャ国民にとって、財政健全化の道はイバラの道である。歳出削減に耐え、増税に耐えても、その先に平安な生活が待っているという保証はない。明るい将来が見えるなら、当面の苦難に耐えようという気にもなる。しかし、将来に期待が持てないなら、当面の苦しみを避けようとする人が増えてもおかしくない。だからこそ財政破綻の可能性が現実化するのだ。

 ギリシャは、財政破綻しても簡単にユーロから離脱できるわけではないし、いま以上に苦しい思いをするかもしれない。しかし、財政破綻に踏み切れば、当面の借金負担からは解放される。ユーロを離脱すれば為替レート固定の拘束からも逃れられるので、経済復活のチャンスが得られるかもしれない。当面の苦しさがどれほどかはわからないが、財政破綻しか道はない──ギリシャ国民がそうした「悪魔の囁き」に衝き動かされないと言い切れるだろうか。