2020年6月からいわゆる「パワハラ防止法」(改正労働施策統合推進法)が施行され(中小企業は準備状況を勘案して22年4月から施行)、今後事業主はハラスメント防止対策の強化が義務付けられることになる。企業でハラスメントが発覚した場合、被害者からの訴訟リスクや、レピュテーションリスクに加え、優秀な人材の流出や生産性の低下のリスク、投資対象から外されるリスクなど、その被害は甚大なものになる。では職場では、どのようにハラスメント対策に取り組めば良いのだろうか? もはや誰もがハラスメントの加害者にも被害者にもなる時代、ハラスメントに対する意識と対策のアップデートが必須になっている。
ハラスメントは個人ではなく
組織の病である
ハラスメントは個人の問題で片付くものではなく、組織の問題として取り組む必要がある。
そのためには、ハラスメントへの認識や対応のアップデートが不可欠だ。
相模女子大学客員教授の白河桃子氏に、個人や企業が実行すべきハラスメント対策の方法を聞いた。
白河桃子氏
東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、住友商事などを経て執筆活動に入る。2008年に中央大学教授の山田昌弘氏と『「婚活」時代』を出版、婚活ブームの火付け役になる。以後、働き方改革、ダイバーシティー、女性活躍などをテーマに活動。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員なども務める。『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)など著書多数。
「ハラスメントが起きると、個人の問題にされがちですが、それは思考停止の危険な考え。その個人の周りにハラスメントを許容する組織があり、さらにその周りにハラスメントを許容する社会がある。ハラスメントをなくすためには、まずハラスメントが『組織の病』であると認識し、組織の意識や行動を変えることが重要です」
ハラスメントに詳しい、相模女子大学客員教授の白河桃子(とうこ)氏はそう提言する。
例えば米国の研究では、世の中にはセクハラ因子を持つ人がいると考える。共感力がなく、伝統的な男尊女卑の考え方や、独裁主義的な性格を持つ人である。だがその人は、どこにいてもセクハラをするわけではない。セクハラが免責される環境にいるときだけ行為に及んでしまう。ならば、免責状態をつくらない組織づくりが大事なのだ。
もう一つ重要なのは、ハラスメント意識のアップデートだという。グレーゾーンが多いといわれるハラスメントだが、その曖昧な境界線も、時代とともに変遷する。一昔前では許されていた行為が、もはや立派なハラスメントであると見なされる。自らの将来を考えるならば、「島耕作※は、ほぼアウト」と思ったほうが間違いない、と白河氏は言う。
※弘兼憲史による日本の漫画「課長島耕作』の主人公。日本のサラリーマンの象徴として描かれ、人気を得た。
「時代がはっきり変わったのは、女性記者からのハラスメント告発で財務事務次官が辞任を発表した2018年4月から。それが分岐点となって、それまで容認されていた『ハラスメントをしても仕事ができる人』は、『組織にリスクをもたらす人』になってしまった。米国では、GoogleもAmazonも幹部社員がセクハラで退職している。個人にとっても企業にとっても、ハラスメント意識のアップデートは必要不可欠なのです」(白河氏)