大企業はレイター・Post-IPOスタートアップに目を向けるべき?

朝倉:これは銀行に限った話ではなく、大企業のオープンイノベーションプログラムや、CVCの活動にも言えることですが、エスタブリッシュメントの方々は「スタートアップ」と聞くと、シードやアーリーのような設立間もない若い会社に飛びつく傾向にあるのではないでしょうか。

大企業が主催するピッチイベントでも、「過去に外部から資金調達を行なっていない会社」ということが応募資格として掲げられているケースもあります。ですが、冷静に考えてみると、銀行も含む大企業にとって、設立間もない若いスタートアップは付き合いやすい相手ではないはずです。大企業側の目利き力も問われます。

また同時に、設立初期のスタートアップの多くは体制もなにもあったものではないため、大企業や銀行とコミュニケーションをとったり商談を進めたりするだけでも、業務上の大きな負担になってしまいます。

そう考えると、スタートアップだからといってエスタブリッシュメントな組織がシードやアーリーステージの会社と共にいきなりビジネスをしようとするのは、大企業や銀行側にとってもスタートアップ側にとっても非常に難易度が高い行為だと思うのです。

我々が常々発信しているように、スタートアップの定義は「未上場」と限定されるものではありません。上場企業であっても、成長志向の強い若い会社はスタートアップですし、また同時に大企業のオープンイノベーションやコラボレーションの相手としてより適した存在なんじゃないでしょうか。

加えて、未上場のスタートアップでも、シード・アーリーステージの会社ではなく事業や体制がより確立されているレイターステージの会社のほうが、大企業との事業提携や銀行の融資の案件ではシナジーを生みやすく、本業にもメリットが出やすいのではないかと思います。

村上:ひと昔前は、スタートアップの層が非常に薄く、シード・アーリーステージの会社が大半を占めていました。現在は、裾野が広がったことにより、ミドル・レイターの会社も増えてきました。

従来の銀行は、ネットワークや人的資源を活用し、融資先・案件を幅広く見ることができたのが強みだったと思いますが、今後は幅の広さだけでなく、一つ一つの融資先とより深い対話を重ねることにより、新たなチャンスが広がるのではないかと、個人的には予想しています。

朝倉:銀行とスタートアップには、コミュニケーションや日々の業務のプロトコルに異なる部分が多々あります。違いを前提とした上で、お互いを慮りながらいい関係性を築くことができれば、より大きなインパクトを及ぼすことができるのでしょうね。

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)、signifiant style 2020/2/16に掲載した内容です。