スペイン没落の時代になぜ
サグラダ・ファミリアは着工されたのか

 個人的な体験を言わせていただきますと、2018年3月にちょっとお休みをいただいて、スペインのバルセロナに旅行してきました。多くの方がご存じだと思いますが、あそこにはアントニオ・ガウディが設計した「サグラダ・ファミリア」があります。未完の世界遺産であり、着工は1882年3月19日ですから、2020年時点で138年が経過しました。当初、完成には300年かかるなどと言われていたようですが、近年のテクノロジーの進化や観光収入増などによって、2026年には完成するという声もあります。

 ガウディがこの世に生を受けたのは1852年のことでした。ということは、サグラダ・ファミリアが着工されたのは、ガウディが30歳の時になります。スペインが「太陽の沈まない国」と言われ、大繁栄を謳歌したのは16世紀中盤から17世紀前半の約80年間です。完成すれば欧州で最も高い宗教建築と言われているサグラダ・ファミリアをガウディが造り始めた時期は、もはやスペイン帝国時代の繁栄は終わっていて、没落の歴史の渦中にあったと思われます。

 なぜ、そのような没落の歴史のさなかに、あのような大建築物を建てようと考えたのでしょうか。よく考えてみると不思議ですよね。没落していたら、それこそ何から何まで世の中全体が節約ムードになって、あんな大建築物を建てようなどというモチベーションが沸き起こるはずがありません。

 そう考えるのが普通ですよね。ところが着工したわけです。私にとって、これはなかなか興味深い発見でした。恐らく、「没落の中の豊かさ」のようなものがあったのでしょう。国はどんどん植民地を失って没落しているのだけれども、繁栄していた時に蓄積した富が豊富にあったから、その富を持っている大金持ちがパトロンになり、ガウディのような芸術家の活動を支えたのだと思います。

「そんな知識や考察は、いくら持っていても何の役にも立たない」とおっしゃる方もいると思います。確かに、ビジネス実務をきちんと進めていくのに、スペインの歴史の知識はあまり役に立たないかもしれません。そもそも「没落の中の豊かさ」という仮説も事実とは異なるかもしれません。

 しかし、このように目にしたもの、歴史的な事実から思いを巡らせて、その国の歴史的背景、文化的背景に関する仮説を導くことによって、グーグルで調べるだけでは得られない自分なりの主張を持つことが、ビジネスでは極めて重要です。

 なぜなら、世界中のビジネスエリートは、自分なりの仮説構築・検証という思考癖を当然のようにもっているからです。自分なりの歴史観、価値観など、単なる知識ではない、広い意味での教養を持っていることが、ビジネスをすすめる上での前提条件になっているのです。数字やデータを知っているだけでは良いビジネスは出来ません。つまり、教養はビジネスでも必要だということです。

 何を申し上げたいのかというと、さまざまな知識を総動員して結果に結びつけていく作業プロセスは、投資もビジネスも同じだということです。つまり、幅広い知識を身に着けるのと同時に、それを上手に組み合わせて自分なりの仮説を導くことが出来れば、投資でもビジネスでも成功する可能性がグンと高まるのです。