世界で11番目に感染者が多いブラジル。感染者が急増したサンパウロ州では、スーパーや銀行など、生活に不可欠な施設以外は全て閉鎖するという「厳しい措置」に出た。一方で、ボルソナーロ大統領は、こうした厳格な措置に反対し、州知事vs大統領という構図がセンセーショナルに報じられるようになった。コロナ対策と経済維持、中間層・貧困層支援の間で揺れるブラジルの現状を解説する。(ジェトロ海外調査部米州課課長代理 辻本希世)
感染者は5万人を突破
ブラジル南東部をコロナが直撃
ブラジルで新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。4月25日時点で感染者は5万2995人、死亡者は3670人。感染者数は世界で11番目に多い(米・ジョンズ・ホプキンズ大学調べ)。
ブラジル保健省によれば、感染者数が最も多いのはブラジル経済の中心である南東部で、全体の50.8%に上る。南東部には、南米最大の経済都市サンパウロ市が位置するサンパウロ州、世界有数の観光地リオデジャネイロ州、ブラジル主要輸出産品である鉄鉱石の産地であるミナスジェライス州といった重要産業を創出する州が集積している。国内GDPの5割以上を生み出す重要地域だ。
4月24日時点で最も感染者数が多いのはサンパウロ州で1万7826人、致死率は8.5%と高い。ブラジル保健省はウェブサイトを通じて、手洗いやうがいの重要性、マスク着用の必要性、さらに握手やハグといった他者との接触が多い習慣を改めるよう、感染拡大防止のために一人一人が取るべき行動を、絵やグラフなどを用いて分かりやすく説明している。
ブラジルに住んでいると感染症とは常に隣り合わせだ。デング熱、黄熱病といった感染症の流行は例年見られ、マラリアも一部の地域では一年中流行している。デング熱に至っては、予防ワクチンや治療薬はないとされ、「とにかく蚊に刺されないように予防する」という方法が、在ブラジル日本国大使館のウェブサイトで推奨されている。
黄熱病やマラリアは、湿度が高く一年中亜熱帯気候が続くアマゾン熱帯雨林地帯、ブラジル北部を中心に発生する。一方で、南東部に位置するサンパウロ市は、1年を通して湿度が低く四季もある。サンパウロ市から北部アマゾナス州までの距離はおよそ3000キロ、アマゾナス州の州都マナウス市までは飛行機で片道4時間半ほど。国内とは思えないほど遠く、サンパウロ市に住む人の中には、黄熱病と聞いてもどこか遠い場所で発生している感染症と感じる人も多い。それゆえ、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた1月から2月にかけて、サンパウロ市民の多くはまだ警戒心が低かった。
加えて、1月から2月は、南半球のブラジルは真夏のバケーションシーズンだ。2月24日~26日には国内最大のお祭りであるカーニバルが行われ、サンパウロ州でも多くの人がカーニバルを楽しむ様子が現地新聞等で報じられていた。そんな折、ブラジルで初の新型コロナウイルス感染者が確認された。2月26日のことだ。感染者は、サンパウロ市在住の男性でイタリアロンバルディア州への渡航歴があった。