わずか4カ月前、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムの年次会合に集まった富と権力、広い人脈を持つ人々の間では、ドナルド・トランプ氏が米大統領に再選されるとの共通した見方があった。だが新型コロナウイルスとそれに続く経済崩壊がその確実性を揺るがしている。欧州連合(EU)から中国に至るまで都市封鎖(ロックダウン)で身動きが取れない中、世界の指導者は、仮にジョー・バイデン前副大統領の政権が誕生した場合、その外交政策はどのようなものになるのかを見極めようとしている。この問いかけは重要だ。米国の外交政策は21世紀に入って通常より一段と不安定さを増した。2001年9月11日の同時多発テロ発生後、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領はテロとの世界戦争を宣言した。バラク・オバマ氏が2008年に大統領に選出されたのは、ブッシュ氏が始めたイラク戦争に異議を唱えた実績が大きかった。オバマ前大統領は注目される3つの国際協定を交渉の末にまとめた。イランの核開発を制限する目的で合意された「包括的共同行動計画(JCPOA)」、環太平洋諸国の経済ルールを取り決め、中国を抑え込むための先手を打つ狙いがある「環太平洋経済連携協定(TPP)」、さらに温室効果ガスの排出削減に向けた国際協調の枠組みの第一歩となった「パリ協定」だ。