「参謀」の役割は、社内の人間にしか担えない

 そもそも、組織はそうした問題を生み出す構造をもっているとも言えます。

 なぜなら、「戦略」を決定する意思決定者は、上位層になればなるほど、現場から遠くなるからです。理屈だけでは割り切れない現場の“どうしようもない現実”から遊離せざるを得ない運命にあると言ってもいいでしょう。そのため、上層部が立案する理路整然とした「戦略」は、現場の実情を踏まえない、単なる「机上の空論」に陥る危険性を常にはらんでいるのです。

 とはいえ、現場に配慮することに終始した「戦略」にも意味はありません。
「戦略」というものは、「現在」の延長線上につくるのではなく、「あるべき未来」から逆算(バックキャスティング)してつくられるべきものだからです。つまり、「戦略」とは、現状と非連続なものでなければならない、もっと言えば、現状否定の要素が含まれていなければならないのです。

 ところが、現場というものは、現状を少しずつ改善(フォアキャスティング)していくものです。そのため、バックキャスティングで考える「戦略」は、必然的に現場からの抵抗を受けるものにならざるをえません。現場に配慮することに終始したとき、「戦略」は、その最も大切なものを失ってしまうのです。

 だからこそ、「参謀」の存在が不可欠です。
 現場に近い「立ち位置」にいて、現場と深いコミュニケーションができ、現場の“どうしようもない現実”を知り抜いている。しかも、自社の「あるべき未来」を追求するバックキャスティング思考の重要性も深く認識している。この二つの視点を備えた「参謀」がもたらす情報や提案は、現場から遊離した意思決定者が、「正しい戦略」をつくるために欠かすことができないものです。

 実行の段階でも「参謀」の補佐が欠かせません。
「戦略」を実行する段階においては、現場の抵抗・反発は必至ですが、これを権力的に押さえ込もうとすれば、そこには必ず禍根が残ります。だから、戦略意図を深く理解するとともに、現場の信頼を得ている参謀が、「理」と「情」を尽くして、現場の理解と納得を得ていく“泥臭い”プロセスが不可欠なのです。

 だから、私は、参謀を「知的な戦略家」というイメージで捉えるのを危惧しています。小難しい経営書を読んで、生半可な「経営論」や「分析フレームワーク」を振り回すような人物は、現場の反発を食らうだけ。それでは参謀は務まらないのです。

 そして、こうした参謀の役割を担えるのは、長年にわたって会社に勤めて、さまざまな部門と信頼関係を築いてきた人物にほかなりません。戦略立案は、外部のコンサルタントに頼ることができますが、「戦略実行の補佐」は、決して外部化できないものなのです。

 意外に思われるかもしれませんが、現場でコツコツと信頼を積み重ねてきた、「泥臭い」人物でなければ、「参謀」は務まりません。これこそが、私が『参謀の思考法』で紹介した、「参謀」を抜擢する第一の条件なのです。