「正直、めちゃくちゃ嫌でした。とはいえ、ずっと『一度はやってみたかった』という話をしていたし……。家計(預貯金)から持ち出しにならないことを条件にOKを出したんです」

 夫が仕事を辞め、パチプロに。

 しかし、それで夫婦仲が悪化することはなかった。アキラさんは約束通り持ち出し(赤字)にはしなかったし、生活に困ることはなかったからだ。アヤノさんは、本音では「就職をしてほしい」という気持ちがあったが、アキラさんは変わらず優しかった。今まで、土日も仕事でいないことが多かったが休みが増え、ふたりでよく遊びに出掛けた。

 表面上、問題はない。それが原因でケンカになることもない。しかし、常にアヤノさんの心の中に引っ掛かかりがあるのは事実だった。

 そんな中、今度はアヤノさんが原因不明の体調不良を頻発するようになってしまう。眠れない。突然動けなくなる……。

 心配したアキラさんが病院を調べ、予約もとって心療内科を受診した。診断は、鬱(うつ)。

「夫のこともやはり少なからずあったと思います。でも、それ以上に当時の会社がつらかった。仕事はとても楽しかったのですが、人間関係がうまくいっていなかったんです。自分では自己肯定感は高い方だと思うし、真面目に仕事に取り組み、成果も出ていた。なのに、やり方が悪いと言われたり、人格否定もされて。自分はできる、がんばらなきゃ、と思えば思うほど、体調は悪化していきました」

 会社は休みたくても休めない。どんどん増えていく仕事量。家では家事もできずに、寝込んでしまうこともあった。そんな家事ができない自分をふがいなく感じ、アキラさんには謝ってばかり。

 そんなアヤノさんを、アキラさんは責めたりはしなかった。

「変わらず優しかったですね。もともと夫は常に私を全肯定してくれていて。以前から、『太ったかも』と言えば、『ん?かわいいよ?』などと返してくれるような人でした。まあ、太ったかも、に対しても否定はしてくれないんですが(笑)」

 アヤノさんの体調が回復しない中、アキラさんは再就職を決めた。しかしそれは、アヤノさんの体調を心配してではなかった。

「もちろん、心配していましたし、僕が原因のひとつなんだろうな、と思っていました。でも、仕事を辞めてから8カ月の間、生活には困らないけど、贅沢(ぜいたく)はできない、ぐらいの収入だった。朝早くから夜遅くまでパチンコ店にいても、思ったより稼げない。これって就職したほうがより短い時間で稼げるな、って」