僕がアメリカで特許訴訟を起こした本気の理由

 ニュース報道でご存知の人もいるだろうが、2011年4月、僕らはグーグル、ヤフー、ベライゾンといったアメリカの大手企業13社を特許侵害で訴えた。和解によって得られる収入(特許のライセンス料)から、僕がそれにたずさわる時間や実際にかかるありとあらゆるコストを差し引けば、生産性はひどく低い。そもそも僕は争いごとを好まない性格なので、昔から僕を知る親しい友人は、僕が訴訟を起こしたと聞いて相当驚いていた。

 ならば、なぜ? アメリカの舞台を借りて、今や世界経済の牽引役たる大手IT企業を相手に特許侵害で戦うことこそが、日本のマーケットを変えるために僕らにできる唯一のアクションだった。〈イーパーセル〉の技術が、グローバル・スタンダードであると実証すること、その一事に賭けてみた。

 日本の大企業の多くは、グローバル・スタンダードの製品を欲しがる。ところが、彼らの言うグローバル・スタンダードとは「欧米の大企業が選んだモノ」という意味で、自分たちでグローバル・スタンダードを定義することはない。

 だったら、世界経済を牽引するアメリカの大手IT企業が提供する製品やサービスの根幹技術に、〈イーパーセル〉の特許技術が使われている事実を証明し、それをマーケットに周知させればいい。そう考えたわけだ。

 大筋の結果は読み通りだった。生き残りを賭けて止むに止まれぬ状況で僕らが抜いた「伝家の宝刀」は、ある一定程度の成果をもたらしてくれた。既存のお客様からの評価がより一層高くなったこと、まだ取引がない大手企業からの問い合わせが相次いでいることがそれを証明している。

 今では、〈イーパーセル〉の名前はIT業界の人に限らず、様々な業界の人たちの知るところとなった。例えば、「国産ベンチャーの〈イーパーセル〉」「技術ベンチャーの〈イーパーセル〉」「世界と戦う〈イーパーセル〉」「知財で戦う〈イーパーセル〉」というように、各々がいろんな冠を付けて〈イーパーセル〉を記憶に留めてくださっている。

 この程度には認知されるようになったのだ。僕が挑戦した「ブランディング」と「マーケティング」の戦略は、それなりに功を奏したと評価をしている。でも、僕の仕事はまだまだ終わっていない。終わっていないどころか、やっと、「一丁目の一番地」に差し掛かったあたりだと感じている。

 つまり、アメリカという舞台を借りて実践してきた僕らのチャレンジが、今後どのように「世界を変える」のかを見守らなければいけない。日本のマーケットがベンチャーを育てられるかどうか、が懸っているのだから。

 ベンチャーが得意とする「尖った技術」は、世界を変える大きな可能性を秘めている。しかし、その「尖った技術」を既存のシステムに馴染ませてくれる大企業の存在なくしては、革新は実現しない。膨大な経験値を持つ大企業が、ベンチャーの技術を磨き続け、日本発のグローバル・スタンダードに育て上げていく。そんな日が訪れることを僕は心から願っている。

 (第4回は9月18日更新予定です)