「垢」を落として、見えてくるもの

 欲を捨てることを座禅の世界では「垢を落とす」という。

 僕は十年来、座禅を続けている。普通に生活をしていれば、時間が経つと自然と「垢」が溜まるものだ。そんな時、決まって谷中の全生庵(ぜんしょうあん)に車を走らせる。わずか40分だが、心静かに座らせてもらう。だいたい月に2、3度は全生庵の門をくぐっているだろうか。

 ご存知の方も多いだろうが、全生庵は、明治の時代に幕末の偉人、山岡鉄舟(やまおかてっしゅう)居士が建てた寺で、昭和の時代に入ってからは、中曽根康弘さんが総理の任にあった頃、「垢」を落としに毎週末通った寺として、僕らの世代にも知られている。

「垢」とは何か? それには当然、欲も含まれるけれど、実際はもっと複雑なものかもしれない。例えば、煩わしい人間関係や利害関係、カネの絡んだ問題に、それらが一緒くたになった外的な厄介事。一方、「人より優位に立ちたい」とか「人から評価されたい」といった内的な思い。誰しも物事を判断する時、そんなことが脳裏をよぎるものだ。判断すべき軸足があまりにも多くなりすぎて、正しい判断や行動ができないものだ。そういう一切合切が「垢」なのだと思う。

「垢」を落としてさっぱりすると、物事の見えかたが変わってくる。人間関係や自分が置かれた状況が変化しようとも、まっすぐに揺るぎなく立っている物事の「本質」のようなものが見えてくる。僕の場合、あらゆる「垢」を徹底的に落としきって最後の最後に残ったものが、「世界を変えたい」という欲望だった。やっと、本当にやりたいコトが見つかった。初めて師の言葉が素直に胸に沁み入った瞬間だった。今は亡き師に心から感謝している。

 〈イーパーセル〉との出会いは次回(9月18日)掲載号に譲るが、そのビジネスモデルは、リアルな物流をインターネットの物流に置き換える「ネット上の国際物流会社」と言ってしまえばわかりやすいだろう。お客様が持っている秘匿性の高い大容量データをネット上でセキュア(安全・確実)に配送する電子物流サービスを提供している。世界で初めてその事業化に成功した会社と思ってもらっていい。