日本企業のブランド志向が足を引っ張っている

 ひるがえって日本の大企業はどうか。経験の限りでものを言うが、多くの場合はブランド志向に首までどっぷり浸かっている印象が強い。彼らは大手メーカーからの提案は無条件に信頼するが、無名のベンチャーが提案する製品は評価することすらしない。門前払いと言ってもいい。

 日本のマーケットは、先進的で、独創的で、産業構造を変革する力を持った技術ベンチャーを育てなければいけない。その環境を一日も早く整備しないと、世界を相手に戦える日が訪れることは、もう二度と期待できない。

 僕らは事業開始以来、「世界を変えたい」という志でマーケットと対峙してきた。そして、「いつかはマーケットが理解してくれるだろう」と自分らに言い聞かせて頑張ってきた。

 でも、僕らには、もうこれ以上の時間の余裕はない。誰かが日本のマーケット環境を劇的に変えてくれると期待してはいけないし、そんな何の保証もないことに僕の人生の一番旬な時期を捧げられるわけがない。

 人が大きな仕事を成し遂げるには、才能とか努力とか、時には運も必要なのだろうが、もっと大切なことを忘れてはいけない。その人が「旬」な時期を迎えているかどうか、だ。今、僕はとても充実して仕事に取り組んでいる。前だけを見て走り続けてきたここ数十年の間に、一流を目指す「志」や「信念」、あるいは「理想」というものが、それなりに熟成されてきたのだろう。ならば、変わるのを待つのではなく、今こそ自分の力で思ったように変えてみればいい。本気でそう思った。