ベイカレント 爆速成長の罠#3Photo by Koyo Yamamoto

国内発のコンサルティングファーム、ベイカレントは急速な台頭を遂げてきた。足元で人員数は5000人を突破し、コンサルビッグ4超えも果たした。だが、あまりに急激な成長は組織や社内風土のひずみも顕在化させつつある。爆速成長の陰でベイカレントがはまった罠(わな)とは。長期連載『コンサル大解剖』内の特集『ベイカレント 爆速成長の罠』では、複数回にわたり、ベールに包まれてきたベイカレントの実像を浮き彫りにする。第3回の本稿では、足元で時価総額1兆円を突破した爆速成長の原動力ともいえる独特なビジネスモデルについて解説する。「営業部隊」と「ワンプール制」という仕組みが持つ強みとは。一方、足元では内部で“異変”が生じているほか、外部では同社を脅かすライバルも台頭している。ベイカレントを襲う“内憂外患”の正体を明かす。(ダイヤモンド編集部 山本 輝)

時価総額1兆円超えのベイカレント
「営業部隊」が支える爆速成長

「もうけるという意味では、完全に“完成された”ビジネスモデル。同じような手法の『ベイカレクローン』が数多く出現しているのが何よりの証左だ」。国内系総合ファームのベイカレントに、ある日系コンサル企業の幹部はそう舌を巻く。

 ベイカレントの“爆速成長”ぶりは、もはや説明不要だろう。売上高成長率はここ6年、毎年20%を超え、2025年2月期の売上高は1160億円と3年前と比較して2倍に急拡大した。勢いは衰えることを知らず、中期経営計画では29年2月期の売上高目標として、さらにその倍以上となる2500億円を掲げる。関係者によると、社内ではその前倒しすらも視野に猛攻勢がかけられているというから驚きだ。

 その躍進ぶりから、株式市場での評価もうなぎ上りだ。16年に上場して以来、かねて株価が10倍となる「テンバガー」銘柄として注目を集めてきたが、直近の時価総額はいよいよ「1兆円」の大台に乗り、いまや日本を代表する企業にのし上がった。

 ベイカレントが躍進した理由は幾つくかあるが、主な原動力が「営業部隊」と「ワンプール制」という2つの柱を持つ特徴的なビジネスモデルだ。

 一般的にビッグ4や戦略系などの外資系ファームであれば、クライアント企業へ案件を持ち掛ける“営業”を行うのはパートナーの役割だ。一方、ベイカレントではプロデュース部、通称「プロ部」と呼ばれる、新規顧客開拓などを担う営業専属部隊を抱えている。

 営業部隊が企業からプロジェクトを受注し、社内の人員へ振り分けて発注するような構造となっているのだ。これにより、営業は新規顧客開拓に、コンサルタントはコンサル業務にそれぞれ集中することができ、品質向上や効率化を図ってきた。

 また、コンサルタントを特定の業界やサービスなどの担当に張り付けず、さまざまなプロジェクトに参加させる仕組みであるワンプール制も柱だ。コンサルタントの専門性が育ちづらいというデメリットがある半面、これによって、コンサルタントの流動性を高めて、高稼働率を実現できる。

 どちらも良く知られた同社のビジネスモデルの特徴であり、近年ではDirbato、ノースサンド、ライズ・コンサルティング・グループといった、同様のモデルを採用する「ベイカレクローン」と称される新興のファームも台頭している。いずれも高成長率を確保しており、ベイカレモデルはコンサル業界では、いまや「勝ち筋」となっていると言っても過言ではない。

 しかし、ベイカレントのビジネスモデルの強さや競争力の源泉は、そうした表層的な組織体制だけにあるのではない。次ページでは、ある種の“経営哲学”ともいえる、ベイカレントモデルの本質について詳しく解説していく。実は、コンサルファームでありながら、社内ではコンサル部隊より営業の方がはるかに格は上なのだ。どういうことか。

 一方、直近では、ベイカレントの爆速成長に水を差しかねない“ある異変”も生じている。それは、コンサルと営業部隊に分けるベイカレントのモデルにとって“致命的な”ダメージを与えかねない恐れもある。また、外部環境にも死角は存在しており、まさに“内憂外患”に見舞われる可能性があるのだ。業績や株価にも影響を及ぼしかねないベイカレントの死角とは。