
三井化学が2027年をめどに石油化学事業を完全分社化する方向で検討に入った。石化事業とヘルスケアや半導体材料などの成長事業を2つに分け、成長事業ではグローバル戦略を加速させる。化学業界では中国の化学品の過剰生産で、国内では基礎原料となるエチレンとその誘導品を生産するセンターを集約する動きが進んできた。三井化学の一手は、石化再編の第2幕への布石といえる。実は、同社の橋本修社長の描く再編構想は大胆なものだ。特集『化学サバイバル!』の#18では、三井化学が石化事業の分社化に踏み切る背景に加え、同社が描く再編の最終形について解説していく。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)
三井化学が石化事業を分社化へ
コンビナート再編第2幕へ布石
「27年にベーシック&グリーンマテリアル(BGM)事業を分社化する」。5月30日午前、東京・八重洲の三井化学本社で開かれたメディア向け経営計画説明会で、橋本修社長がそう説明すると、記者たちは色めきたった。分社化の中身に質問が殺到し、同日の株式市場でも株価は大きく上昇した。
三井化学は化学業界の中ではいち早く構造改革に乗り出し、競争力が低下している高純度テレフタル酸(PTA)の能力削減などを打ち出す一方、メガネレンズ材料や歯科材料などのライフ&ヘルスケア、自動車部品などのモビリティー、半導体材料などのICTの3部門を成長分野と位置付け、M&A(合併・買収)も実行してきた。
石油化学事業でも、三井化学は千葉県内の設備で、出光興産側が設備を止めて三井化学側に集約する方針を決めたほか、大阪に持つエチレンプラントについては、岡山県の水島地区にエチレンプラントを持つ旭化成と三菱ケミカルの西日本3社の枠組みで連携し、生産最適化に向けた集約・統合の検討を進めている。
橋本社長は「最低でも27年までに100%子会社化する」と明言。「いろいろなクラッカー(エチレンセンター)が再編や提携の検討をしているが、その先のリソースをさらに厚くするため強い事業体を作っていく」との方針を明らかにした。
石化業界では、中国の化学品の過剰供給などを背景に、ここ数年コンビナート再編の動きが加速していた。三井化学が関わる西日本と千葉のほかにも、コスモエネルギーホールディングス子会社の丸善石油化学が千葉県内で単独運営する1基を止め、住友化学との共同出資会社に集約するほか、今年2月にはENEOSホールディングスが川崎市にある2基のエチレンプラントのうち1基を停止する方針を明らかにしていた。
だが、ただ数を減らして供給量を抑えることだけが、再編の目的ではない。橋本社長は会見の中で、こう語っている。「最終的に(コンビナートは)グリーン化に向かうが、人材・技術も含めて当社のリソースだけでは十分でなく、一緒にやっていく会社が持ち寄った方が厚みも増すし、投資も出てくる。そのためには早めにどうあるべきかを進めていく必要がある」。
つまり、三井化学による石化事業の分社化は再編第2幕の布石として、これまでの部分的な再編から、これから始まるグリーンコンビナート実現に向けた大型再編を見据えたものといえる。次ページでは、三井化学が石化事業の分社化に踏み切る背景に加え、同社が描く再編の最終形について解説していく。
実は、橋本社長は昨年11月に実施したダイヤモンド編集部のインタビューに対して、その構想の一端を明かしている(『三井化学社長が「独自の業界再編案」を披露!西日本の石油化学の“集約”のメドはいつ?』参照)。当時の発言も紹介しながら、今後の再編の方向性について探る。