少子高齢化による国内市場縮小で、企業のクロスボーダーM&Aやグローバル化はもはや不可欠。積極果敢にそれらを推し進めるには、いったい何が必要なのか。そのカギを握るのが、「経営ダッシュボード」と呼ばれる経営指標の可視化だ。属人的な意思決定ではなく、主要な経営指標を常時チェックしながら迅速に意思決定を下し、会社をよき未来へと導くことができるか――。多国籍企業へと舵を切った日本企業の経営陣の中でも、攻めと守りの両方を担えるCFOの存在が重要になってくる。

急速なグローバル化が生んだ
2つの課題

LIXILグループ 執行役副社長 経理・財務・M&A担当 兼 CFO 松本佐千夫 SACHIO MATSUMOTO
1982年、富士ゼロックスに入社。富士ゼロックス アジア・パシフィック CFO、富士ゼロックスサービスクリエイティブの代表取締役社長を経て、2013年にLIXILグループ 執行役専務 経理・財務担当兼共同CFOに就任。2016年に執行役副社長 経理・財務・M&A担当兼CFO就任(現職)。日本ではまだ珍しい「CFOがM&Aを担当する」という役割を務めることで、攻めと守りの両方を担う経営を体現している。

松本:LIXILグループは2011年に、住宅設備・建材の国内トップメーカー5社(トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリア)が経営統合してスタートした会社です。国内市場に軸足を置いてきた一方で、海外市場での成長という課題を抱えており、統合時の2011年には、海外売上比率が3%という状況でした。

 我々が持っている技術力を活かした製品を海外の方々にもっと使ってほしい。そして、より快適な生活を送ってもらいたい。その強い思いから、経営統合後、積極的な海外展開へと舵を切りました。

 海外展開のスピードを上げて進めていくためには、時に「時間を買う」ことも必要です。

 そこで我々は「海外企業のM&A」という戦略を取り、アメリカでは衛生陶器・水回り製品の最大手であるアメリカンスタンダード、ドイツでは水栓金具・水回り製品大手のグローエ、イタリアでは建材大手であるペルマスティリーザといった企業を、次々とグループ入りさせていきました。その結果、5年後の2016年には、海外売上比率が30%超を達成。5年間で10倍となる、急速なグローバル化を推し進めてきたのです。

 ただし、そのグローバル化によって、2つの大きな課題も生まれました。

 1つ目は、「グループとしての一体感の醸成」です。当然ながらグローバルな環境の中では、言葉はもちろん、文化などのギャップが存在します。特に我々は長く国内中心の事業展開をしてきたため、そうしたギャップ解消に不慣れだったこともあるでしょう。日本と海外の間に、大きな意識のズレがあることを感じていました。

 2つ目は、「ガバナンスに対する考え方の相違」です。グループ入りした海外企業の中には非上場企業もあり、我々のような上場企業とは、ガバナンスやコンプライアンスへの考え方や仕組みに大きな違いがありました。

 そうした課題を乗り越え、どうやってLIXILグループとしてグローバルに一体感を持ち、コンプライアントな体制に統一していくか。これが最も頭を悩ませたところでした。

KPMGコンサルティング 代表取締役社長 兼 COO
宮原正弘 
MASAHIRO MIYAHARA
1991年、旧朝日新和会計社(現有限責任あずさ監査法人)に入所。IFRS事業部長、KPMGアジア太平洋地域Accounting Advisory Service代表、アジア上場アドバイザリーグループ責任者、アドバイザリー企画部長等を経て、2017年7月にKPMGコンサルティング代表取締役社長兼COOに就任(現職)。最先端テクノロジーを活用し、企業の戦略策定から実行支援までサポートする総合コンサルティングファームのリーダーとして、国内外で活躍している。

宮原:LIXILグループが急速にグローバル化を進めた後、次の成長ステージに向けて、経営管理の高度化、グローバル事業ポートフォリオの組み替えに積極果敢に取り組まれているとお聞きしています。

 具体的にはどのような取り組みを推進されているのでしょうか。

松本:監査や内部統制の仕組みを強化しています。特に制度会計では、グループ全体のクオリティを底上げしようと、資金や為替のグループ管理を行う「トレジャリーマネジメント」(財務管理)を導入。そのためのリージョナル・トレジャリー・センターを創設し、すでに4カ所の設置が完了しました。 

 また、グループ内の会計業務を1カ所に集約・標準化する「シェアードサービス」も始めました。シェアードサービス・センターを2017年12月に中国で立ち上げ、アジア、アメリカ、ヨーロッパへと続く予定です。

 こうした仕組みを新たに導入することで、国内外のグループ全体にガバナンスを効かせようとしています。

宮原:当社のような会計事務所系コンサルティングファームにとっても、「内部統制の強化」は非常に重要な課題と認識しています。

 特にクライアント企業が、情報システムや基幹システムのインフラを導入する時には、内部統制や情報セキュリティなどを同時並行かつリアルタイムに担保することができる、信頼性の高いシステムを導入できるように支援しています。

 当社が顧客に提供しているグローバル化支援業務は、基幹システムの刷新プロジェクトが多く、その場合、本社だけでなく、海外子会社を含むグローバルレベルで刷新を行うことが重要です。世界各国でM&Aを行う日本企業が増えているにもかかわらず、現地の法制や歴史的な背景によって、本社とまったく異なるシステムを使っているケースも少なくありません。それをどのように統合していくか、さらに日本のフィロソフィをどのように入れていくか。ここに注力することがグローバル戦略の要だと考えています。