攻めと守りの両方が担える
経営パートナーへ

宮原:ここからは、松本さんが務められているCFOの役割について考えてみたいと思います。

 いまやCFOは、有価証券報告書作成のようなスコアキーパー的な財務・経理部門の管掌だけでなく、事業や財務・非財務情報を俯瞰し、CEOの経営判断に貢献する「攻めの経営パートナー」になることが求められています。

 ちなみに松本さんは、CFOであると同時に、M&Aも担当していらっしゃいますが、これはまさに「攻めの経営パートナー」だといえますね。

松本:決算書、有価証券報告書の作成はもちろん重要ですが、日本企業のCFOはそれに重きを置きすぎていて、どうしてもプロアクティブ(積極的・先見的)になり切れないところもあるかと思います。

 事業を進めていくうえで必要なのは、「予測に基づいた対応策」です。決算数字が確定してから対応策を考えるのではなく、この先どうなりそうかを考えて、あらかじめ手を打っていくことが大切です。そのためには、先ほど宮原さんがおっしゃったように、最新技術を活用し、経営指標を見える化した経営ダッシュボードが不可欠ですし、我々も実際に進めています。

 また、「事業がわかる」ということも、CFOとして大切な条件です。CEOあるいは事業の責任者に対して、根拠ある数字と予測を背景に、「こうすればもっと競争力が高まりますよ」という提案ができる能力が求められています。

 私のようにCFOがM&A担当を兼ねるのは日本ではまだ珍しいようですが、攻めの経営パートナーになるためにも、時には数字の面から冷徹な判断ができることも重要であり、それはM&Aにおいても非常に有効です。デューデリジェンスという、その事業や会社を買うことが本当に正しいのかという分析や、買収後の統合プロセス(PMI)を考えて人員配置を検討することをCFOが行うことで、より成功角度の高い買収を実現することができます。

 そしてもう一つ、CFOに不可欠なのは「資本政策」ですね。コーポレートファイナンス、コーポレート・トレジャリー(財務管理)として、この事業への最適資本政策は何か、そこに到達するためにはどうしたらいいか。こういうことも合わせて考えていくのも、CFOの大事な仕事です。

宮原:つまり、攻めも守りもできるCFOということですね。私は常々、M&AはCFOが計画段階から担当すべきだと言い続けてきたので、御社のようにそれを体現している日本企業があることは、とても心強いです。

 というのも、日本企業ではM&Aを事業部門主導で行うケースが多いのが実情です。事業部主導で買収を決め、デューデリもやってから、ようやく最後にCFOや経理部門に「買収資金をお願い」「会計処理や税務はどうなりますか」とやってくる。その結果、高い買い物をすることになりかねません。

 また、M&Aが完了した後のリスクやシナジーについても、現在の財務数値だけで判断するのではなく、事業の内容をきちんと理解し、先行きを見渡していくことが重要なのですが、それがきちんとできている企業はそう多くありません。だからこそ、もっとCFOがM&Aに深くタッチすべきなのです。しかし残念ながら、それができるCFOも少ないという現実もあります。

 いずれにせよCFOは、従来のコンプライアンス中心のいわゆるスコアキーパー型の経理・財務的役割から、全社の成長戦略に貢献する、CEOや事業部門のビジネスパートナーという役割へと進化していくべきです。

 では、その際に重要になってくるのは何か。まず「攻め」の部分で言えば、これまで財務数値情報が中心だったものを、パフォーマンス指標中心の管理にシフトしていくということ。そのためには、KPI(重要業績評価指標)をきっちり設定して、業績管理をきちんとすることが求められます。また、財務情報と非財務情報を統合し、経営判断ができるレベルにして、リアルタイムで提供することも不可欠です。

 一方、「守り」の部分は、予防的・発見的の双方で、データもしくはテクノロジーを活用した内部監査、内部管理をしていくことです。たとえば内部監査では、財務情報、非財務情報、議事録やメールなどすべての情報をAIに読み込ませ、どこにリスクがあるかを分析し、そこから生まれたリコメンドに即して監査手続きを行うといった、いわゆる「AI監査」に流れが向かいつつあります。

 またCFOは、企業全般を俯瞰的に見られる立場にありますので、全社的なオペレーションの効率化や、事業部門と連携をしながらコストを削減していくことも、これまで以上に求められています。すでに御社が行っているシェアードサービスや資金管理の集中のように、管理を高度化する仕組みの導入が相次ぐでしょう。

松本:それらはまさに「経営にデジタルを組み込む」ということですが、そのためにはCDOやCIOといった存在が不可欠です。

 我々のようにCDOを置いている会社は日本ではまだ少ないようですが、CDOやCIOが最先端のデジタル技術を使ってリーダーシップを取ってくれることは、CFOを助け、CEOを助けることにつながります。それぞれの職掌範囲の可能性を広げ、経営陣みんなが、互いに「攻めと守りのパートナー」へと進化すべき時代なのです。

 


  1. ●制作|ダイヤモンド クォータリー編集部