ポートフォリオの組み替えで
シナジー効果を発揮する

松本:また我々は、「ポートフォリオの組み替え」も積極果敢に進めている最中です。

 たとえば、イタリアのペルマスティリーザについては、2017年8月に株式の譲渡を決定。この結果、株主資本比率が向上し、財務体質がより強固になります。一方で、グループ入りした海外企業とのシナジー効果の追求は、次々と実を結んでいます。

 まずは、商品開発においてです。ドイツのグローエは水栓金具やシャワーヘッドの大手であり、デザインの美しさは世界中で評価されています。そこで、グローエのデザイン力とINAXの開発・生産技術力を融合させ、シャワートイレの新製品「センシア アリーナ」を発売したところ、ドイツで大ヒット。この1年で最も売れた商品となりました。

 また、生産性の向上も挙げられます。アメリカンスタンダードの衛生陶器を扱っているメキシコ工場では、体質強化が問題になっていました。そこでメキシコに日本の技術者を派遣し、技術指導や継続的なプロセス改善によって、歩留まり(手直しを必要としない良品率)が2014年から2016年にかけて約25%向上し、約3億円のコスト削減効果を創出しました。

 さらには、販路も拡大しています。アメリカンスタンダードとグローエが互いの販売チャネルを使って自社製品を売るクロスセルを行ったところ、大きく売上げが伸びました。そこでもう一歩踏み込む形で、両社のアメリカ、カナダ、メキシコの法人を2017年10月に統合しました。

 このような海外企業のM&Aによる事業ポートフォリオの組み替えは、オーガニックにシナジー効果を生み出しています。その結果、グループ発足時には540億円だった海外売上高は、この5年間で7000億円にまで拡大しています。

付加価値の高いデータを
リアルタイムで提供

宮原:御社の瀬戸欣哉社長は、114人いた役員を53人に半減し、6階層あった組織を5階層にするなど、ドラスティックな経営改革で注目されていますね。

 また2016年には、グループを横断的に統括するマーケティング本部を新設されました。その本部長には、瀬戸社長と一緒にMonotaRO(モノタロウ)を創業した金澤祐悟氏をCDO(チーフデジタルオフィサー)に招聘するとともに、経営管理の高度化も進められています。

 ちなみに、KPMGが世界の主要10カ国のCEOを対象に実施した「KPMGグローバルCEO調査2017」では、日本企業のCEOは、みずからの経営判断のもととしているデータの品質(網羅性や正確性、タイムリー性など)に不安を感じている比率が世界のCEOの回答に比べて圧倒的に高い、という結果が出ています。 

 経営が進化するために重要になってくるのは、CFOがCEOに対し、付加価値の高い情報を提供できるかということ。これは、「エンタープライズ・パフォーマンス・マネジメント」と呼ばれており、グローバルに散らばっているさまざまな財務情報や非財務情報をタイムリーかつ正確に吸い上げ、それを財務・経理部門やCFOが判断し、CEOに付加価値の高いデータをリアルタイムで提供する、というニーズが世界中で高まってきているのです。

 一方で、企業のデジタル化の取り組みは、議論から実行のフェーズへシフトしています。

 たとえば、その一つが「インメモリーコンピューティング」です。ハードディスクを使わずにメモリー上で驚異的な速さで演算処理を行う仕組みで、さらにこれをクラウドで行うことで、事務作業の圧倒的な効率化を行う破壊的新技術が実用段階に入っています。

 こうした「エンタープライズ・パフォーマンス・マネジメント」というCEOからのニーズがあり、それを満たす、大量のデータを迅速に処理する破壊的技術が実現したいま、御社のようにグローバルに先進的な経営管理の高度化を進める企業は今後さらに増えるでしょうね。属人的な意思決定ではなく、主要な経営指標を常時チェックしながら迅速に意思決定を下す「経営ダッシュボード」が、日本でも始まったといえるでしょう。

松本:中期経営計画では、成長基盤の整備のための「バランスシートの改善」「組織の簡素化」を2018年3月期までに完了する予定ですが、そのためにマーケティング本部を設置し、経営判断へのデジタル技術活用を積極的に推進しています。そして同年4月からは、成長のための体質改善に向けた「利益率向上」の施策実行に移行する予定です。